刑事事件の控訴期間、初日はいつ?起算日や期限日の計算方法、控訴審の流れ等を紹介!
「刑事事件の裁判判決に不服がある!控訴期間っていつからいつまで?」
裁判結果に不服があるとき、控訴という言葉を思い浮かべる方は多いかと思います。
しかし判決からしばらく時間が経つと控訴できなくなってしまうという点について、知っている方は意外といません。
- 控訴期間の初日から終了日までの計算方法が知りたい!
- 控訴期間中にやらなきゃいけないことって何?
- そもそも控訴って何?不服があれば控訴していいの?
- 弁護士費用は追加でかかるの?
今回はこのような疑問を徹底解説!控訴期間のお悩みを払拭します!
なお専門的な解説は刑事事件を数多く取り扱い、控訴審などの裁判手続きにも詳しいアトム法律事務所の弁護士にお願いしています。
よろしくお願いします。
刑事事件において、控訴する気だったのにうっかり控訴期間を過ぎてしまった場合、取り返しはつきません。
後から温情で控訴審を開いてくれるなんてことは原則的にないのです。
後悔しないように、控訴期間についてこの記事でしっかりと確認していってください。
目次
控訴趣意書(理由書)の提出も必要?民事裁判とはどう違う?刑事事件の控訴期間の計算方法
裁判所での判決に不服があったときには、被告人は上訴することができます。
第三百五十一条 検察官又は被告人は、上訴をすることができる。
(略)
第三百五十三条 被告人の法定代理人又は保佐人は、被告人のため上訴をすることができる。
(略)
第三百五十五条 原審における代理人又は弁護人は、被告人のため上訴をすることができる。
第三百五十六条 前三条の上訴は、被告人の明示した意思に反してこれをすることができない。
(略)
出典:刑事訴訟法 第三編 上訴 第一章 通則
上訴というのは、裁判結果に対して納得できないとき、上級の裁判所に新たな裁判を求める不服申立てのことを言います。
刑事訴訟法に定められている通り、事件の被告人、被告人の法定代理人や保佐人、事件担当の弁護士、検察官は上訴することができます。
第一審(1番最初に行われた裁判)の判決に対して上訴することを控訴と言います。
刑事事件の場合には特別な事件を除いて全て高等裁判所に控訴の申し立てを行うことになりますが、これには期限が設けられています。
控訴期間の初日はいつから?起算日から控訴期間終了日までの計算方法
実は、控訴期間、起算日、その他日付に関する細かいルールはすべて刑事訴訟法において法的に細かく定められています。
条文を参照しながら、ひとつずつ確認していきましょう。
まず、控訴の申し立ての期限については、刑事訴訟法373条に定められています。
控訴の提起期間は、十四日とする。
出典:刑事訴訟法373条
「控訴の期限は14日間」
問題はこの14日の初日はどこに定められているのかという点です。
これは刑事訴訟法358条に定められています。
上訴の提起期間は、裁判が告知された日から進行する。
出典:刑事訴訟法358条
条文中、上訴と書かれていますが、先に説明した通り控訴は上訴の一種ですから、この条文が適用されます。
「裁判が告知された日から進行する」
すなわち、裁判の判決が言い渡された日から14日間ということになりますが、刑事訴訟法55条にひとつ特別なルールが定められています。
期間の計算については、時で計算するものは、即時からこれを起算し、日、月又は年で計算するものは、初日を算入しない。但し、時効期間の初日は、時間を論じないで一日としてこれを計算する。
出典:刑事訴訟法55条1項
「日、月又は年で計算するものは、初日を算入しない」と定められています。
つまり、
裁判で判決が言い渡された日の翌日が控訴期間の初日
ということになります。
控訴期間のまとめ
判決の言い渡された日の翌日から数えて14日間
一例を挙げて考えてみましょう。
一例
6月1日に判決が言い渡された場合
①判決日 |
---|
6月1日に判決が言い渡されたとします。 |
②起算日 |
「日、月又は年で計算するものは、初日を算入しない」というルールにのっとり起算日は ✔6月2日 となります。 |
③控訴期間最終日 |
6月2日から14日間なので、控訴期間最終日は ✔6月15日 となります。 |
また、刑事訴訟法は、控訴期間内の休日の扱いに関してもルールを定めています。
期間の末日が日曜日、土曜日、国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日、一月二日、一月三日又は十二月二十九日から十二月三十一日までの日に当たるときは、これを期間に算入しない。(略)
出典:刑事訴訟法55条3項
控訴期間の最終日が、
- 土日祝日および
- 12月29日~31日、1月2~3日
にあたる場合には控訴期間の最終日は次の平日にまで延ばされます。
先の例でいうと、6月15日が土曜日であった場合、次の月曜日である6月17日の23時59分までが期限となります。
ちなみに…
裁判所では控訴に必要な書類について24時間受け付ける当直窓口が設置されています。
無論、余裕を持たせたほうがいいですが、日付ギリギリになってしまっても書類の受付はしてもらえます。
控訴趣意書(理由書)の提出は必須?民事裁判とやり方は違う?控訴申立の流れ
さて、では期限内に提出しなくてはいけない書類にはどんなものがあるのでしょうか?
まず、先ほどの控訴期限内に絶対に提出しなくてはならないのは控訴申立書です。
控訴をするには、申立書を第一審裁判所に差し出さなければならない。
出典:刑事訴訟法374条
書いてある通り、控訴申立書を第一審裁判所に提出します。
気をつけていただきたいのは、「第一審」の裁判所に提出するという点です。
地方裁判所で行われた裁判に不服があった場合には、その地方裁判所に書類を提出します。
実際に控訴の判断が行われる高等裁判所に、直接提出することはできません。
この控訴申立書には通常、控訴の理由などは書きません。
控訴申立書に書く内容
- 被告人名
- 事件名
- 係属部(事件を担当した裁判所)
- 判決日
- 被告人や弁護人の署名と押印
さらに、
「上記の事件について、平成○○年○月○日、○○地方裁判所が言い渡した○○の判決は、全部不服であるから控訴を申し立てる。」
といった文言も付記します。
控訴趣意書(理由書)の作成
控訴申立書の提出からしばらく経つと、控訴を判断する上級の裁判所より「控訴趣意書提出最終日」が告知されます。
この最終日までに、控訴趣意書を作成し、提出しなければなりません。
控訴申立人は、裁判所の規則で定める期間内に控訴趣意書を控訴裁判所に差し出さなければならない。
出典:刑事訴訟法376条
控訴趣意書というのは、控訴の理由について具体的に記した書類です。
詳しくは後述しますが、控訴の理由については法律で規定があり、これに外れると容赦なく棄却(控訴が認められないということ)されます。
また控訴趣意書には、その控訴理由の証明となる資料を添付しなければなりません。
控訴審は事後審です。
控訴審は、事件そのものに対して、上級の裁判所がもう一度最初から審理をしてくれるのではありません。
つまり控訴審は、
「控訴趣意書に対して審判を下す裁判である」
といっても過言ではないのです。
民事事件における控訴との違い
民事事件における控訴においては、控訴趣意書は控訴理由書と呼ばれるようになります。
また、民事の控訴と刑事の控訴は、手続きのうえで差があります。
民事控訴の経験がある方は、刑事における控訴について、期限等について同じものだと捉えないよう注意しましょう。
控訴申立書 | 控訴趣意書 | |
---|---|---|
提出期限 | 控訴期間(判決翌日から14日以内)に提出 | 控訴趣意書最終日までに提出 |
内容 | 被告人の名前など、必要事項を書く | 控訴の理由を書く |
そもそも控訴審とは?控訴の流れや意味、棄却や差戻の基準を紹介
そもそも控訴審とは何なのでしょうか?
先ほど控訴趣意書の項でも触れましたが、実は刑事事件において控訴するには、法的に定められた控訴理由に適っている必要があります。
- そもそも控訴審とは何か
- 控訴理由はどんなものなら認められるのか
- 控訴審の流れはどんな感じなのか
これらについて、ここできちんと解説していきます。
控訴の理由は何でもいいの?控訴の意味を解説
控訴について
「もう一度はじめから、今度は上級の裁判所で審理をやり直す」
という勘違いをしていらっしゃる方は多いようです。
しかしそれは誤解です。
そもそも控訴とは?
判例上、控訴審とは事後審であり、一審と同じ立場で事件そのものを審理するのものではないとされています。
(略)
控訴審は、第一審と同じ立場で事件そのものを審理するのではなく、(略)事後的な審査を加えるべきものなのである。
(略)
出典:最高裁判所大法廷 昭和46年3月24日 事件番号 昭和41年(あ)第2101号
「一審判決そのものに対して、事後的な審査が加えられる」
さらに、この事後的な審査においては、
第一審の判決が、刑事訴訟法に定められた控訴理由に該当するか
が審理されます。
刑事訴訟法で定められた控訴理由に、該当しない場合、容赦なく控訴は棄却されます。
刑事訴訟法で定められた主な控訴理由は以下の通りです。
控訴理由①訴訟手続の法令違反
第一審の審判の手続きが法令に反しており、その違反が判決に影響を及ぼしていることが明らかな場合は控訴理由に適います。
一例
- 補強証拠の挙示を欠く判決
- 不起訴となった余罪についてまで実質的に量刑に組み込んだ疑いのある判決
さらに、実際にこの理由で控訴が行われた実例を挙げてみましょう。
事件の概要 |
---|
被告人Aは、元交際相手に全治約1週間を要する頭部顔面外傷の傷害を負わせたとして起訴された。 |
第一審の内容 |
第一審の判決文には ・本件傷害罪以外の不起訴となった余罪「暴行」「器物損壊」「脅迫」等の行為について、具体的かつ詳細に記載されていた。 ・こういった余罪に関する証拠について、「証拠の標目」の項において多数記載されていた。 |
この事件について、控訴審では、
起訴されていない余罪を実質的に処罰に組み込んだ
と認定。
法令違反があったとして、控訴が認められました。
控訴理由①の補足 訴訟手続の法令違反の中でも特殊なケース
基本的に控訴理由として適うのは「その判断の誤りや違反が判決に影響を及ぼすことが明らかな場合のみ」とされています。
しかし訴訟手続の法令違反のうち、特に重大な7つの違反については、判決に影響を及ぼしていようがいまいが控訴理由として適うとされています。
この7つの違反による控訴の理由を絶対的控訴理由と言います。
絶対的控訴理由
- 法律に従って判決裁判所を構成しなかつたこと
- 法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと
- 審判の公開に関する規定に違反したこと
- 不法に管轄又は管轄違を認めたこと
- 不法に、公訴を受理し、又はこれを棄却したこと
- 審判の請求を受けた事件について判決をせず、又は審判の請求を受けない事件について判決をしたこと
- 判決に理由を附せず、又は理由にくいちがいがあること
あまりにも違反の度合いが重大すぎるとして、これらに該当する場合には、無条件で控訴が認められます。
控訴理由②法令の適用に誤りがあること
第一審で認定された事実について、法令の適用に誤りがあって、その誤りが判決に影響を及ぼしている場合も控訴理由に適います。
一例
- 本来併合罪にならないものについて併合して審理されていた場合
- 勾留日数の算入に誤りがある場合
控訴理由③刑の量定が不当であること
下された判決の量刑が重すぎる場合も、控訴理由にあたります。
例えば、こういった事例があります。
事件の概要① |
---|
被告人Aは自身の長男から長年にわたり暴力や暴言を受けていた。 |
事件の概要② |
Aは次男の妻が妊娠したのを契機に、 ・「次男の妻や生まれてくる孫にまで暴力が振るわれるのではないか」 という不安を持つようになり、またうつ病に罹患した。 |
事件の概要③ |
Aは長男の殺害を決意した。 刃渡り21センチの包丁を用いて長男の腹部を数回突き刺し、よって死亡させた。 |
第一審の判決 |
第一審では、懲役5年の判決が下った。 被告人が当時罹患していたうつ病が、本件犯行に与えた影響の程度が大きいとはいえないと判断された。 |
Aの弁護士は、量刑不当であるとして控訴しました。
控訴審の判決文をご覧ください。
(略)
うつ病が本件犯行の動機形成に与えた影響は大きかったと評価でき,(略)責任非難を軽減する事情として,量刑判断において重要な要素となるというべきである。(略)原判決の量刑判断は,この重要な量刑要素に関する評価を誤っている。そうすると,原審は,その誤った評価に基づいて不当に重い量刑をしたものと推測せざるを得ない。
(略)
出典:東京高等裁判所 平成25年11月15日 事件番号 平成25年(う)第631号
要するに、
- Aの罹患していたうつ病が、本件事件発生に与えた影響は大きかった
- うつ病について勘案せずに下された第一審判決の量刑は不当に重すぎる
つまりは量刑不当として控訴が認められ、懲役3年の判決となりました。
第一審の判決が終わった後、被害者とのあいだに示談が締結されたときなどにも量刑不当の控訴が認められる場合があります。
示談の締結が判決に影響を与えることは明らかです。
そういった理由については、控訴審の裁判所で、事実の取り調べをしなくてはならないとされています。
第一審判決後の、示談締結の事実は、控訴審においてかなり有利な証拠として働きます。
控訴理由④事実の誤認
事実の誤認があってその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかである場合も、控訴の理由に適います。
一例
- 冤罪なのに有罪となった判決
- 殺人事件において、殺意はなかったのに殺意有りとされた判決
また、第一審の後に新証拠が出てきたような場合も、証拠の適用に一定の限度はありますが、こちらの控訴理由にあたります。
控訴理由⑤形式ミス
結局は先に挙げた控訴理由のどれかに該当することにはなりますが、判決の形式的なミスに対しても控訴することができます。
一例
- 判決文の証拠の標目に欠落がある
- 判決文の、法令の適用が誤っている
こういった場合、控訴審でも、第一審と内容的に全く同じ判決が下される場合が多いです。
ただ、その間に稼げた勾留日数は、懲役刑の中に算入されるので、まったく無意味というわけではありません。
まとめ
刑事訴訟法上で認められている主な控訴理由
①訴訟手続の法令違反 |
---|
先の審判の手続きが法令に反しており、その違反が判決に影響を及ぼしていることが明らかな場合 また、訴訟手続の違反の中でも特に重大な7つの理由に適う場合 |
②法令適用の誤り |
法令の適用に誤りがあって、その誤りが判決に影響を及ぼしている場合 |
③量刑が不当 |
下された判決の量刑が重すぎる場合 |
④事実の誤認 |
事実の誤認があってその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかである場合 |
⑤形式ミス |
判決文などに形式的なミスがあった場合 |
これらの理由から外れたものを控訴趣意書に記載していた場合には、棄却されてしまいます。
控訴すると追加で弁護士費用がかかる?裁判費用について解説
「控訴をするにあたって、弁護士費用が追加でかかるのか」
この点について気になっている方も多いかと思います。
ここで触れておきましょう。
控訴したい!でも追加で弁護士費用がかかるの?
現在、弁護士報酬は自由化されており、一概に言うことはできないのですが、結論としては追加の着手金がかかる場合が多いようです。
着手金の金額は、
- 最初に払った着手金と額と同額の場合
- 最初に払った着手金から割り引かれる場合
などが想定されます。
控訴に至ること自体、非常に稀なケースですから、法律事務所の公式サイトを覗いてみても金額について明示してあるケースは少ないです。
もし控訴の追加の着手金についてお悩みのことがあれば、弁護士事務所に直接問い合わせてみてください。
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最後に弁護士からメッセージ
では最後に一言お願いします。
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まとめ
今回は刑事事件における控訴期間について解説してきました。
刑事事件の控訴期間のまとめ
- 刑事事件の控訴期間は、判決翌日から数えて14日間
- 控訴期間中に控訴申立書を提出する必要がある
- 控訴趣意書提出最終日が告知されたら、それまでに控訴趣意書を提出する必要がある
- 控訴は事後審であって、事件そのものを審理するわけではない
- 控訴にあたっては、弁護士費用として追加の着手金がかかる場合がある
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