暴行罪の被害届の時効は?暴行や傷害に関する刑事事件の時効の年数とは
「ずっと前の暴行事件について被害届を出すと言われてしまった。」
このような方は、被害届が出されることで、逮捕されてしまうのではないかと不安な気持ちだと思います。
ですが、時効が成立すると、暴行事件で処罰されることはありません。
- そもそも「時効」って何?
- 暴行の時効期間の年数は?
- 暴行によるケガの損害賠償請求にも時効があるって本当?
このような「暴行の時効」にまつわるギモンについて、今回はレポートしていきます。
時効など法律の詳しい解説は、刑事事件を扱うアトム法律事務所の弁護士にお願いします。
よろしくお願いします。
暴行事件の公訴時効の年数は、他の事件の時効期間よりも比較的短期間です。
今回は、暴行の時効について実務の観点から解説を加えていきます。
目次
暴行罪、傷害事件、性的暴行に関する「公訴時効」の年数
暴行の被害届をだされても起訴されない?「公訴時効」とは
暴行といっても、様々な事件があります。
- 知人同士の「喧嘩」
- 家庭内暴力
- 傷害事件
- 性的暴行
この中でも、家庭内暴力の検挙率が上がってきている傾向があるようです。
全国の警察が摘発した暴行事件のうち、配偶者や親子など親族間で発生した事案が右肩上がりに増え続けている。平成28年は6千件を超え、19年からの10年間で3倍以上に。被害が深刻化しているドメスティックバイオレンス(DV)や虐待の増加が要因とみられ、警察庁の担当者は「警察が家庭内の事案を積極的に摘発した結果ではないか」と話す。
出典:産経ニュース(2017.1.20 8:41)
ですが、摘発されなかった「暴行」事件については、どうなるのでしょうか?
いつまでも摘発されずに、一定年数の時効期間が経過すると、処罰されなくなります。
この時効のことを、公訴時効といいます。
まずは、「公訴時効」の概要について確認してみましょう。
「公訴時効」とは、犯罪後一定期間が経過することにより刑事訴追されない制度のことです。
公訴時効が成立すると、起訴されることはありません。
仮に、起訴されたとしても、免訴判決が下されることになります。
暴行罪で起訴された場合、公訴時効が成立していれば、免訴判決が下され、裁判手続が打ち切られます。
暴行罪の被害届を出されたとしても、すでに暴行罪の時効が成立していることもあります。
その場合、その暴行罪について処罰されることはありません。
公訴時効期間を過ぎると、刑事訴追されない
「告訴期間」と「公訴時効期間」の違い
親告罪の告訴期間
公訴時効と似たような概念として、「告訴期間」というものがあります。
告訴とは、告訴権者が捜査機関に対して、犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示のことです。
このような告訴にも、期間制限があるのです。
この「告訴期間」とは、どのようなものなのでしょうか。
告訴期間とは、親告罪について、告訴を有効にすることのできる期間のことをいいます。
親告罪については、有効な告訴の存在が起訴の条件となっています。
親告罪以外の犯罪だと、告訴について、期間は制限されません。
親告罪の告訴には、「告訴期間」の制限がある
親告罪の告訴期間と、公訴時効期間の違い
親告罪の「告訴期間」と、「公訴時効期間」の違いについて、まとめてみます。
告訴期間
- ① 告訴期間は、親告罪で問題になる。
- ② 告訴期間内に、親告罪の告訴がなければ起訴されない。
※親告罪の告訴は、公訴時効期間内であっても、告訴期間を経過していたら、許されない。
公訴時効期間
- ① 公訴時効期間は、すべての犯罪で問題になる。
- ② 公訴時効期間内に、起訴されなければ処罰されない。
似たような概念なので、誤解が生じやすいです。
注意しましょう。
親告罪では、「告訴期間内の告訴」と、「公訴時効期間内の起訴」がなければ、処罰されない
「暴行」は親告罪なのか?
では、暴行事件は、親告罪なのでしょうか?
下の表に、暴行事件が親告罪にあたるかどうか、まとめてみました。
罪名 | 刑法の条文 | 親告罪か? | |
---|---|---|---|
① | 暴行罪 | 208条 | ✖ |
② | 傷害罪 | 204条 | ✖ |
③ | 過失傷害罪 | 209条 | 〇 |
④ | 性的暴行* | 177条~179条 | ✖ |
暴行事件の中では、「過失傷害罪」が親告罪にあたるようです。
親告罪の告訴期間は、6か月間です。
過失傷害罪の場合は、6か月を経過する前に告訴されなければ、起訴されません。
加えて、公訴時効期間内に起訴されなければ、処罰されません。
ちなみに、性的暴行については、近年、「告訴」が不要になりました。
性的暴行事案の法改正については、以下のリンクも参考にしてみてください。
さて、次に暴行罪や傷害事件の公訴時効について見ていきましょう。
暴行罪や、傷害事件の公訴時効|年数一覧
では、いよいよ、各種の暴行事件についての「公訴時効」の年数をしていきましょう。
- ① 公訴時効の年数の一覧
- ② 暴行罪や、暴行に関係する犯罪の公訴時効の年数のチェック
これらについて、確認していきましょう。
①公訴時効の年数の一覧
まずは、公訴時効について規定された条文を確認しましょう。
ひとつめの条文は、刑事訴訟法250条1項です。
これは、「人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く。)」の公訴時効についての規定です。
時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く。)については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
一 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については三十年
二 長期二十年の懲役又は禁錮に当たる罪については二十年
三 前二号に掲げる罪以外の罪については十年
出典:刑事訴訟法第250条第1項
この条文は、暴行がエスカレートして、被害者を死亡させてしまったようなケースで関係します。
はじめは、暴行 ↓ エスカレートして、傷害 ↓ とうとう、「人を死亡させた」 |
さて、刑事訴訟法250条1項の規定内容をまとめると、次のような表になります。
250条1項 | 法定刑 | 時効期間 |
---|---|---|
柱書 | 死刑に当たる罪 | なし |
1号 | 無期の懲役又は禁錮に当たる罪 | 30年 |
2号 | 長期二十年の懲役又は禁錮に当たる罪 | 20年 |
3号 | 表の①~③以外の罪 | 10年 |
次に、刑事訴訟法250条2項です。
これは、「人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪」の公訴時効についての規定です。
時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
一 死刑に当たる罪については二十五年
二 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については十五年
三 長期十五年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については十年
四 長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については七年
五 長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については五年
六 長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年
七 拘留又は科料に当たる罪については一年
出典:刑事訴訟法第250条第2項
人を死亡させていない「暴行事案」の公訴時効は、こちらの規定が関係してきます。
250条2項 | 法定刑 | 時効期間 |
---|---|---|
1号 | 死刑に当たる罪 | 25年 |
2号 | 無期の懲役又は禁錮に当たる罪 | 15年 |
3号 | 長期十五年以上の懲役又は禁錮に当たる罪 | 10年 |
4号 | 長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪 | 7年 |
5号 | 長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪 | 5年 |
6号 | 長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪 | 3年 |
7号 | 拘留又は科料に当たる罪 | 1年 |
②暴行罪や、暴行に関係する犯罪の公訴時効の年数のチェック
では、実際に、「暴行」に関する犯罪の公訴時効の年数をチェックしていきましょう。
まずは、暴行罪の法定刑を確認しましょう。
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
出典:刑法第208条
公訴時効が決定される基準となる法定刑は、規定されている中で、最も重い刑罰です。
この暴行罪の条文に規定される中で最も重い法定刑は、
2年以下の懲役
となります。
そうすると、公訴時効の年数は、表②の6号にあたります。
暴行罪の公訴時効期間は、「3年」になります。
表② | 法定刑 | 公訴時効 |
---|---|---|
6号 | 長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪 | 3年 |
暴行がエスカレートして傷害事件になってしまうこともありますよね。
次に、傷害罪、傷害致死罪の公訴時効をチェックしてみましょう。
まず、「傷害罪」の法定刑を確認しましょう。
人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
出典:刑法第204条
最も重い法定刑は、「15年以下」の懲役となります。
そうすると、公訴時効の年数は、表②の3号に当たります。
傷害罪の公訴時効期間は、「10年」になります。
表② | 法定刑 | 公訴時効 |
---|---|---|
3号 | 長期十五年以上の懲役又は禁錮に当たる罪 | 10年 |
次に、傷害致死罪の公訴時効期間をチェックしてみましょう。
まず、「傷害致死罪」の法定刑の確認です。
身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。
出典:刑法第205条
傷害罪の最も重い法定刑は、「3年以上」の懲役です。
有期懲役については、刑法12条に「20年以下」という規定があります。
そのため、傷害罪の法定刑は、「3年以上20年以下」の懲役となります。
そうすると、表①の2号(刑事訴訟法250条1項2号)にあたり、公訴時効期間は「20年」です。
表① | 法定刑 | 公訴時効 |
---|---|---|
2号 | 長期二十年の懲役又は禁錮に当たる罪 | 20年 |
最後に、過失傷害罪の公訴時効をチェックしてみましょう。
まず、「過失傷害罪」の法定刑の確認です。
過失により人を傷害した者は、三十万円以下の罰金又は科料に処する。
出典:刑法第209条第1項
過失傷害罪の法定刑は、罰金や科料です。
過失傷害罪は、「人を死亡させた罪」といえますが、法定刑が「禁錮以上」ではないため、公訴時効の一覧表②を参照します。
そうすると、過失傷害罪は、表②の7号にあたり、公訴時効期間は「1年」です。
表② | 法定刑 | 公訴時効 |
---|---|---|
7号 | 拘留又は科料に当たる罪 | 1年 |
性的暴行が問題になる刑事事件の公訴時効|年数一覧
では、今度は「性的暴行」に関する犯罪の公訴時効をチェックしていきましょう。
性的暴行といえども、
- 「暴行」のみならず、「死亡させた」事案
- 「暴行」を加えただけの事案
- 「強姦」にあたる性的暴行
- 「痴漢」にあたる性的暴行
など、ケースは様々です。
まず、「強姦」に該当する事案の公訴時効からです。
性的暴行①(いわゆる「強姦」の公訴時効)
まずは、いわゆる「強姦」のケースについて、公訴時効を見ていきましょう。
刑法の改正により、「強姦罪」という罪名ではなくなり、「強制性交」などと呼ばれるようになりました。
この類型には、次のような犯罪があります。
- 強制性交
- 準強制性交
- 監護者性交
これらの性的暴行の法定刑は、どれも「5年以上20年以下」の懲役です。
条文をチェックしてみましょう。
強制性交
十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔くう性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
出典:刑法第177条
準強制性交
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。
出典:刑法第178条第2項
監護者性交
十八歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第百七十七条の例による。
出典:刑法第179条第2項
最も重い法定刑は、「20年」の懲役です。
そうなると、表②の3号にあたります。
これらの性的暴行の公訴時効期間は、「10年」です。
表② | 法定刑 | 公訴時効 |
---|---|---|
3号 | 長期十五年以上の懲役又は禁錮に当たる罪 | 10年 |
さらに、これらの罪を犯して、人を死傷させた場合には、さらに法定刑の重い犯罪を構成します。
第百七十七条、第百七十八条第二項若しくは第百七十九条第二項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は六年以上の懲役に処する。
出典:刑法第181条第2項
この条文によると、人を傷害した場合と、人を死亡させた場合で、法定刑は異なりません。
どちらも、最も重い法定刑は、「無期懲役」です。
しかし、公訴時効の定めは異なります。
まず、強制性交等「致傷」の場合、公訴時効は一覧表②を参照します。
そして、その一覧表②の2号にあたるので、公訴時効期間は、「15年」です。
表② | 法定刑 | 公訴時効 |
---|---|---|
2号 | 無期の懲役又は禁錮に当たる罪 | 15年 |
一方で、人を死亡させた場合には、公訴時効の一覧表①を参照することになります。
強制性交等「致死」は、一覧表①の1号にあたるので、公訴時効期間は、「30年」です。
表① | 法定刑 | 公訴時効 |
---|---|---|
1号 | 無期の懲役又は禁錮に当たる罪 | 30年 |
このように、同じ「強姦」という性的暴行でも、公訴時効の年数は異なっています。
いままでの内容をひとつの表にまとめてみたので、参考にしてみてください。
性的暴行の罪名 | 公訴時効 | |
---|---|---|
① | 強制性交 | 10年 |
② | 準強制性交 | 10年 |
③ | 監護者性交 | 10年 |
④ | 強制性交等致傷 | 15年 |
⑤ | 強制性交等致死 | 30年 |
性的暴行②(いわゆる「痴漢」の公訴時効)
次に、まとめる性的暴行の類型は、「痴漢」に近い類型です。
- 強制わいせつ
- 準強制わいせつ
- 監護者わいせつ
この3つについて見ていきましょう。
これらの法定刑は、すべて「6か月以上10年以下」です。
それぞれの規定を確認してみましょう。
強制わいせつ
十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
出典:刑法第176条
準強制わいせつ
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
出典:刑法第178条第1項
監護者わいせつ
十八歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
出典:刑法第179条第1項
この法定刑のうち、最も重い法定刑は、「10年」の懲役になります。
そうなると、公訴時効の一覧表②の4号にあたり、公訴時効期間は、「7年」です。
表② | 法定刑 | 公訴時効 |
---|---|---|
4号 | 長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪 | 7年 |
さらに、これらの犯罪で人を死傷させた場合には、公訴時効の年数が変わります。
まず、これらの犯罪の法定刑は、「無期または3年以上の懲役」です。
条文は、次のとおりです。
第百七十六条、第百七十八条第一項若しくは第百七十九条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
出典:刑法第181条第1項
この法定刑のうち、最も重い法定刑は、「無期」です。
そして、人を傷害した場合は、公訴時効の一覧表②を参照します。
公訴時効期間は、「15年」になります。
法定刑 | 公訴時効 | |
---|---|---|
2号 | 無期の懲役又は禁錮に当たる罪 | 15年 |
強制わいせつ等で「人を死亡させた場合」は、公訴時効の一覧表①を参照します。
この場合、公訴時効期間は、「30年」です。
法定刑 | 公訴時効 | |
---|---|---|
1号 | 無期の懲役又は禁錮に当たる罪 | 30年 |
ここまで、見てきた内容をまとめて一覧にしました。
性的暴行の罪名 | 公訴時効 | |
---|---|---|
① | 強制わいせつ | 7年 |
② | 準強制わいせつ | 7年 |
③ | 監護者強制わいせつ | 7年 |
④ | 強制わいせつ等致傷 | 15年 |
⑤ | 強制わいせつ等致死 | 30年 |
人を傷害したら15年、死亡させたら30年という公訴時効は、強制性交等の場合と同じです。
しかし、「人の死傷」という事実がない場合、
- 「強姦」類型の性的暴行の公訴時効の年数は、10年
- 「痴漢」類型の性的暴行の公訴時効の年数は、7年
このような違いがあります。
刑事事件の時効は「公訴時効」以外も。暴行罪の「刑の時効」とは
ところで、刑事事件の時効は、「公訴時効」だけではありません。
「刑の時効」というものがあります。
刑の時効とは、いったい、どのような制度なのでしょうか。
死刑を除く刑の言渡しを受けながら、それが確定した後一定期間執行を受けなかった場合に、刑の執行が免除される制度です。
公訴時効は、時効がくるまでに起訴されなければ処罰されないというものでした。
この「刑の時効」は、起訴された後に裁判で言い渡された刑罰が執行されるか免除されるかという問題です。
刑の時効について規定している条文を見てみましょう。
第三十一条 刑(死刑を除く。)の言渡しを受けた者は、時効によりその執行の免除を得る。
出典:刑法第31条
死刑判決が出された場合、死刑については刑の時効にかかりません。
その他の刑については、次のように規定されています。
第三十二条 時効は、刑の言渡しが確定した後、次の期間その執行を受けないことによって完成する。
一 無期の懲役又は禁錮については三十年
二 十年以上の有期の懲役又は禁錮については二十年
三 三年以上十年未満の懲役又は禁錮については十年
四 三年未満の懲役又は禁錮については五年
五 罰金については三年
六 拘留、科料及び没収については一年
出典:刑法第32条
刑の時効も公訴時効も、刑罰を基準として時効期間が定められています。
ただ、その基準となる刑罰には、違いがあります。
- 公訴時効は、個別の条文にあらかじめ規定されている刑罰
- 刑の時効は、裁判で言い渡された刑罰
という違いです。
【公訴時効の算定例】起算日から公訴時効成立までを計算、時効の「停止」についても
時効の成立が延期になる?「時効の停止」とは
「時効」とセットで考えたいのが、「時効の停止」です。
通常、時効は、時効の起算点から進行していきます。
しかし、何らかの事実があると、その時効の進行が停止されます。
では、時効の停止が生じる事由には、どのようなものがあるのでしょうか。
まず、「公訴の提起」による時効の停止があります。
この場合、管轄違又は公訴棄却の裁判が確定した時から、時効が進行します。
また、次のような場合も、時効が停止します。
- 犯人が国外にいる場合
- 犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかつた場合
この場合、「国外にいる期間」や「逃げ隠れている期間」、時効が停止されます。
時効期間の算定その①【暴行罪の時効】起算日から公訴時効成立まで
では、実際に、暴行罪の公訴時効をカウントしてみましょう。
次のニュースを例に、暴行罪の時効の成立を検討してみます。
容疑者(略)を現行犯逮捕した。(略)逮捕容疑は、12日午前0時5分ごろ、垂水区の飲食店前の路上で、自営業の男性(52)の腹を蹴り、暴行した疑い。
出典:時事ドットコムニュース(2018.2.12 14:27)
このニュースをもとに、時効の算定のポイントをまとめると次のとおりです。
暴行罪の時効成立
▼事案
2018年2月12日午前0時5分、容疑者が被害者に対して腹部を蹴る暴行をした。
▼逮捕容疑
暴行罪
▼暴行罪の公訴時効
3年
公訴時効の算定については、次のようなルールがあります。
- ① 時効は、犯罪行為が終った時から進行する(刑事訴訟法253条)
- ② 時効期間の初日は、1日としてカウントする。(刑事訴訟法55条1項ただし書)
- ③ 時効は、規定された年数を経過したときに成立する(刑事訴訟法250条1項柱書)
これらのルールに従って、上記の暴行事案の時効をカウントしてみましょう。
- ① 犯罪が終った時は、「2018年2月12日午前0時5分」です。
- ② 時効は初日は、2018年2月12日です。時効期間の起算日は、この日になります。
- ③ 暴行罪の公訴時効は、「3年」を経過したときに成立します。
この暴行事案の時効成立の日
上記の事情からすると、公訴時効期間は、「2018年2月12日」からカウントします。
そして、2018年2月12日から「3年」を経過したときに時効が成立します。
時効期間の算定その②【性的暴行の時効】起算日から公訴時効成立まで
次に、性的暴行の公訴時効成立までを追ってみましょう。
こちらのニュースの容疑者は、性的暴行の常習者だったようです。
少し、ニュースを読んでみましょう。
捜査関係者によると、(略)逮捕当初から容疑を認め、「何年も前から他にも何件かやった」などと、一連の事件への関与もほのめかしているという。
(略)
26年8月中旬の未明、(略)女性に性的暴行を加えたとされる。
出典:産経WEST(2017.5.26 5:44)
この性的暴行の事案を原案としつつ、下記の事例で、公訴時効の成立を考えてみます。
性的暴行の時効成立
▼事案
平成26年8月15日午前2時、女性に性的暴行を加えた。
▼逮捕容疑
強制性交
▼強制性交の公訴時効
10年
この性的暴行の事案では、平成26年8月15日から10年を経過した時に、公訴時効が成立します。
被害届で慰謝料発生?暴行罪の刑事犯が負う損害賠償責任の時効とは
暴行で発生する損害賠償請求権とは
ここまで、刑事事件の公訴時効を中心に見てきました。
これから、民事事件の時効について確認していきましょう。
暴行事件を起こすと、
「いつ起訴されてしまうのだろうか・・・。」
このような悩みを抱えることになりますが、ほかにも気をつけたいことがあります。
それは、損害賠償請求です。
暴行は、民法上の不法行為にあたるので、損害賠償の対象になるとのことです。
相手にケガをさせた場合には、治療費などの損害賠償が必要になります。
性的暴行でも、損害賠償を請求されることはあります。
次のニュースは、刑事事件で不起訴になった後に、民事事件で損害賠償を請求された事件です。
望まない性行為で精神的苦痛を受けたとして、(略)男性に1100万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が5日、東京地裁(略)であった。男性側は争う姿勢を示した。
(略)
この問題を巡って、警視庁は男性を準強姦(ごうかん)容疑で捜査したが、東京地検が嫌疑不十分で不起訴処分とした。(略)今年5月、検察審査会に不服を申し立てたが、東京第六審査会は9月、「不起訴相当」とする議決を出した。
出典:朝日新聞デジタル(2017. 12 5 19:26)
この事件では、「準強姦」という性的暴行が問題になっています。
準強姦は、改正後の刑法だと「準強制性交」に当たります。
このような性的暴行についても、慰謝料などの損害賠償を請求されることになります。
慰謝料や被害弁償などの損害賠償請求権の時効|起算点や時効期間算定方法など
暴行をしたことで発生する慰謝料、被害弁償などの損害賠償請求権の「時効」は、消滅時効といわれるものです。
この「消滅時効」とは、どのようなものなのでしょうか。
「消滅時効」とは、権利を行使しない状態が一定期間継続することで、権利が消滅する時効制度をいいます。
損害賠償請求権についても、その請求権を行使しない状態が一定期間継続すると、その請求権が消滅することになります。
では、暴行事件で発生した損害賠償請求権が、消滅するのは、どのくらいの期間なのでしょうか。
刑事事件を起こすと、民法724条にもとづき不法行為による損害賠償請求をされることになります。
この損害賠償請求権が消滅する期間については、次の2つが規定されています。
- ① 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき
- ② 不法行為の時から20年を経過したとき
従来、②の部分については、判例上「時効」ではないとされてきました。
しかし、2020年4月1日から施行される改正民法では、「時効」として規定される予定です。
ところで、民事上の「時効」の成立について、注意すべき点はあるのでしょうか。
損害賠償請求権の時効が成立した際、その請求を拒否するためには、「時効の援用」が必要になります。
「時効の援用」とは、当事者が時効の利益を受ける意思表示をすることです。
民事の損害賠償請求権は時効が成立したら、払う義務はなくなります。
しかし、自分で、損害賠償請求権が時効にかかっていることを主張しなければなりません。
損害賠償請求権にも「時効の停止」はある?
消滅時効の「停止」
時効とセットで考えておかなければならないのは、「停止」です。
刑事事件では、「時効の停止」がありました。
民事の損害賠償請求権の消滅時効にも、「停止」はあるのでしょうか。
消滅時効にも、「時効の停止」の制度はあります。
天災事変などで、権利者の権利行使に困難な事情がある場合、一定の期間、時効の完成を延ばす制度です。
・未成年者又は成年被後見人と時効の停止(158条) ・夫婦間の権利の時効の停止(159条) ・相続財産に関する時効の停止(160条) ・天災等による時効の停止(161条) |
たとえば、Aさんんが、未成年Bちゃんに暴行した事案を考えてみましょう。
参照すべき条文は、民法158条1項です。
時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。
出典:民法第158条第1項
未成年者には、行為能力がないので、権利行使は法定代理人に任されます。
ですが、Bちゃんが、成人する前6か月に以内の間に、親などの法定代理人がいない場合もあるでしょう。
その場合、Bちゃんが損害賠償請求権の行使をすることは、困難です。
このようなケースでは、Bちゃんが、行為能力者となった時から6か月を経過するまでの間、損害賠償請求権の時効が停止されます。
消滅時効の「中断」
時効の進行を妨げるもう一つの制度をご紹介しましょう。
こちらの制度は、公訴時効にはありませんでした。
それは、時効の「中断」です。
では、時効の中断とは、いったいどのような制度なのでしょうか。
「時効の中断」とは、時効の基礎となる事実状態と相いれない一定の事実が生じた場合に、既に経過した時効期間を無意味とされる制度です。
時効が中断された場合、中断事由が終了した時から、新たに時効期間の進行が開始されます。
3年の時効期間のうち、2年経過した時点で、時効が中断されることもあるでしょう。
この場合、再度、3年の時効期間をカウントしなければなりません。
時効の中断事由は、次のとおり規定されています。
時効は、次に掲げる事由によって中断する。
一 請求
二 差押え、仮差押え又は仮処分
三 承認
出典:民法第147条
このような事由によって、時効が中断されてしまいます。
でも、法律の解釈はむずかしいですよね。
「自分の事件の損害賠償請求権の時効が中断されてしまったのだろうか。」
このような不安をおもちの方は、弁護士に相談してみてもよいかもしれません。
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今回は、「暴行の時効」について見てきました。
- 喧嘩して「暴行罪」になりそう
- 暴行がエスカレートして傷害事件になった
- 性的暴行をしてしまった
このような暴行事件の時効について悩んでいる方や、
時効直前で逮捕されてしまった方もいることでしょう。
そのような方々が、すぐに弁護士に相談できるツールを最後にご紹介しておきますね。
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さいごに
今回は、「暴行の時効」についてレポートしてきました。
暴行といっても、公訴時効の年数は様々でしたね。
暴行の時効期間は、他の犯罪に比べて、比較的短期の年数が規定されています。
しかし、人を死亡させた場合などは、年数が長くなります。
時効寸前に逮捕されてしまう人も多くいます。
逮捕されてからは、被害弁償の準備など、急を要します。
時効直前で逮捕されてしまった方は、すぐにでも弁護士にご相談していただければと思います。