刑事事件の執行猶予とは?執行猶予の意味や取り消しになる条件
刑事事件をおこしたが、執行猶予がつく可能性はあるのだろうか?
執行猶予がつくのかどうか気になるという方は多いと思います。
- 執行猶予とは
- 執行猶予がつく条件
- 再犯でも執行猶予がつくのか
このような疑問や不安をお持ちかもしれませんね。
そこで今回は、「刑事事件と執行猶予」についてレポートしていきます。
解説者には、刑事事件の弁護で有名なアトム法律事務所の弁護士にお願いしています。
目次
執行猶予って何?
執行猶予がつくとどうなる?
執行猶予という言葉はニュースなどでよく耳にしますが、はっきりと制度を理解しているという人は少ないのではないでしょうか。
ネットニュースを検索してみました。
架空の県の制度などをかたり、知人から金をだまし取ったとして詐欺罪に問われた、県職員の妻(略)の判決公判は19日、長野地裁であった。
室橋雅仁裁判官は懲役3年、執行猶予4年(求刑懲役4年)の判決を言い渡した。(略)
判決などによると、被告は昨年2〜4月、知人女性2人に対し、「県の子育て支援事業に金を預けると高い利子が付く」「がん患者を支援する目的の高金利の預金がある」などとうそを言い、計約325万円をだまし取った。
出典:信濃毎日新聞(2018年3月20日)
知人に詐欺行為を働いて、お金をだましとったという刑事事件の判決ニュースです。
「懲役3年、執行猶予4年」の判決が言い渡されています。
このように執行猶予は、刑事事件の判決に登場します。
執行猶予付きの判決を受けた被告人は、どうなるのでしょうか。
執行猶予
刑の執行を一定の期間、猶予する制度
執行猶予付きの判決が言い渡されると、直ちに刑務所に行く必要はありません。
基本的にはその判決日に自宅に戻って、日常生活を送ることができます。
その後、執行猶予期間満了まで何事もなければ、言い渡された懲役刑は消滅し、今回の事件で刑務所に行く必要はなくなります。
執行猶予中は、保護観察が言い渡されたケースを除くと、日常生活に特別な制約はなく、これまで通りの暮らしを送ることができます。
学校に通ったり、引っ越しや結婚なども自由です。ビザ取得にさえ問題がなければ海外旅行に行くこともできます。
執行猶予についての解説動画を紹介します。
あわせてチェックしてみてください。
執行猶予の意義
そもそも、執行猶予という制度がある理由は何なのでしょうか。
執行猶予の意義
社会生活の中で自らの罪を反省し、更生をうながす
刑の執行を猶予する代わりに、自ら反省して更生することが求められるのが執行猶予の意義です。
自らの罪を悔い改め、再犯を犯すことなく、社会の一員として復帰できるようにうながす制度となっています。
執行猶予は、刑事事件において有罪ではあるが今すぐ刑務所にいれるのは重すぎるという判断でもあります。
刑務所に今すぐ入れるのではなく、
「今度、犯罪を犯したら確実に刑務所に行くことになる」
このような心理的なプレッシャーを与え、社会の中で自発的に更生・反省することが執行猶予の目的とされています。
執行猶予の期間
執行猶予には、最短と最長の期間が決められています。
- 最短:1年
- 最長:5年
実務の運用は、3年~5年の範囲で執行猶予期間が決められることが多くなっています。
刑の全部が執行猶予となるケースだけでなく、一部の期間のみ執行猶予となる場合もあります。
執行猶予の期間はいつからいつまで?
実際に執行猶予を受けることになったら具体的な期間の数え方はいつからいつまでになるのでしょうか。
執行猶予の期間は、刑が確定した日を開始日として数えます。
起算日・起算点 | 判決が確定した日 |
---|---|
満了日 | X年後 |
判決は、言い渡しを受けた日の翌日から14日間はまだ確定していません。
この14日間は上訴期間です。
上訴
裁判の結果に納得できない場合に、上級の裁判所に判決の言い渡しの取消しや変更を求めること。
上訴期間が満了した翌日に判決が確定することになります。
具体例をもとに、考えてみたいと思います。
例
判決の言い渡し:2018年4月1日 判決:懲役3年、執行猶予4年 |
これを規定に当てはめてみると…
回答
はじまり | 2018年4月16日 |
---|---|
おわり | 2022年4月15日 |
このような期間となります。
執行猶予中の行動は制限はないですが、細心の注意を払って生活することが大切です。
たとえば、交通事故をおこすと執行猶予が取り消される可能性がありますので、日常生活の中で車の運転には注意を払いましょう。
執行猶予の取り消しについては後ほど解説します。
執行猶予の条件
執行猶予がつく条件
では、どのような刑事事件であれば執行猶予はつくのでしょうか。
執行猶予の条件は刑法25条に規定されています。
(刑の全部の執行猶予)
第二十五条 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
執行猶予の条件①
-
今回の刑罰が、3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金であること
執行猶予の条件②
-
過去に懲役刑も禁錮刑も科せられたことがないこと
-
科せられたことがあっても、その執行が終わってから5年以内に懲役刑も禁錮刑も科せられていないこと
①と②の条件を両方満たす必要があります。
酌むべき情状があることも重要視されます。
執行猶予がつくのは、刑罰が懲役刑であることがほとんどです。
理論上、罰金刑にも執行猶予を付けることができますが、実際に罰金に執行猶予がつくことはないといっていいでしょう。
また、3年を超える刑には執行猶予がつかないというのも一つのポイントです。
執行猶予の情状として考慮される要素・・・示談が重要?
刑事事件で執行猶予を獲得するには、執行猶予の要件を満たしていることが必要条件ですが…
「情状」があることも重要なポイントとなります。
執行猶予に必要な情状
- ① 被害者と示談が成立し、許しをもらっている
- ② 十分に反省し、再犯しないよう努めている
- ③ 更生環境が整っている
このような事情を弁護士を通して積極的に裁判官に証明することが執行猶予獲得のポイントとなります。
特に示談の成立は、検察官や裁判官の判断に大きく影響を与えます。
示談を通して、
- 被害者に対する謝罪がおこなわれている
- 被害弁償がおこなわれている
- 被害者からの許しをもらっている
このように、被害者に対して真摯につぐなう姿勢を表すことが重要です。
示談についてくわしくはこちら
執行猶予を獲得するための弁護活動とは
弁護士は被告人が裁判で執行猶予を獲得するために、どのような弁護活動をするのでしょうか。
弁護士は、被害者との示談交渉を行ったり、裁判での被告人の受け答えの仕方をアドバイスするなどのサポートを行います。
また、①事件内容、②被告人自身の事情、それぞれに有利な点があるかを検討して、裁判官に主張します。
弁護士は最後まで被告人の味方であり続けて、依頼者である被告人の利益のため全力で取り組みます。
裁判で執行猶予を得るためには、有利な事情をしっかりと検討し、適切に主張する必要があります。
被告人がすぐに刑務所に服役する必要はなく、執行猶予を付けて社会での更生を目指すことが適切であることを主張することで、執行猶予獲得に近づくことになるんですね。
執行猶予を獲得するための弁護活動
事件自体の有利な事情 | ・被害が軽微だ ・計画的でなく稚拙な犯行である ・動機に酌むべき事情がある など |
---|---|
依頼者自身の有利な事情 | ・示談や被害弁償を行い、深く反省している ・依存症であれば治療するなど、再犯防止に取り組んでいる ・すでに十分な社会的制裁を受けている ・同種の前科もなく刑事裁判も初めて ・監督してくれる家族などがいる など |
執行猶予の取り消し?執行猶予中に再犯をおこなえば・・・
執行猶予中に再び罪を犯してしまった場合、執行猶予は取り消される可能性があります。
執行猶予中の再犯は厳しく処罰されることが予想されます。
執行猶予が取り消されることになれば、
- 前回、受けるはずだった禁錮刑・懲役刑の刑期
- 今回、言い渡される禁錮・懲役といった刑の刑期
これらを合計して、刑務所に入ることになります。
たとえば…
前回の刑 | 懲役1年6月、執行猶予3年 |
---|---|
今回の刑 | 懲役1年 |
合計 | 懲役2年6月 |
執行猶予の期間で1年過ぎていたとしても、その分を差し引いて懲役6月になることはありません。
それでは、執行猶予が取り消される条件を確認していきましょう。
執行猶予が必ず取り消される「必要的取消し」
執行猶予の必要的取消し
- 条件:執行猶予中に「禁錮以上の刑」に処せられた場合
- 効果:再度の執行猶予がつかない限り、必ず執行猶予が取り消される
執行猶予中の再犯によって、懲役刑や禁錮刑が言い渡されることになれば、再度の執行猶予とならない限り、前の事件における執行猶予は必ず取り消されます。
再度の執行猶予がつく場合についてはのちほど説明します。
執行猶予が取り消される可能性がある「裁量的取消し」
執行猶予の裁量的取消し
- 条件:執行猶予中に「罰金刑」に処せられた場合
保護観察付きの執行猶予で遵守事項を守らず、その情状が重いとき など - 効果:裁判官の裁量によって、執行猶予が取り消される
執行猶予中の再犯によって罰金刑が言い渡される場合は、執行猶予を取り消すかどうかは裁判官の裁量で判断されます。
考慮されるような情状があれば執行猶予が取り消されない可能性もあります。
再犯での執行猶予の可能性
再犯でも、一定の要件をみたせば執行猶予がつく可能性があります。
要件はつぎのとおりです。
再犯の執行猶予
- 言い渡される刑が1年以下の懲役・禁錮である
- 特に酌量すべき情状がある
- 保護観察つきの執行猶予中の再犯でない
再犯でも執行猶予がつくには、このような厳しい要件を「すべて」満たさなければなりません。
再犯でも、被害者と示談が成立していたり、被害者が加害者を許しているなどすれば執行猶予がつく可能性があります。
再度の執行猶予を俗に「ダブル執行猶予」ということもあります。
執行猶予期間中に犯した再犯でも、近年、依存症などによって引き起こされる犯罪では執行猶予がつく傾向にあるそうです。
こちらをごらんください。
有罪判決後の執行猶予期間中に万引きを繰り返すなどした認知症の高齢者らを刑務所に送らず、治療を受けさせながら社会の中で更生を模索する動きが広がっている。
高齢者による犯罪の増加や、刑事裁判で高齢者らの弁護を担当する弁護士と社会福祉士との連携が背景にあるが、課題も少なくない。(略)
出典:YOMIURI ONLINE『認知症で万引き繰り返す…服役よりケアで再犯防止』(2018年4月3日)
万引きや覚醒剤・麻薬といった薬物事件は、再犯のなかでもとくに再犯が多いといわれています。
このような再犯を引き起こす原因は、依存症である場合が多いそうです。
刑務所に入れられて更生したように見えても、原因である依存症を治療しなければ根本的な解決にはなりません。
そのような解釈から、刑務所より「執行猶予によって治療施設へ」という流れに変化してきているのですね。
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最後に一言アドバイス
それでは、最後に弁護士から一言アドバイスをいただきたいと思います。
執行猶予付きの判決を得るためには、反省や更生の意欲を示さなければなりません。
これらを証明するためには、一定の準備が必要となります。
適切に裁判官に事情を説明できるように、弁護士には早期の段階でご相談いただきたいと思います。
弁護士相談はハードルが高いと感じられることもあると思います。
無料相談などをおこなう弁護士も多いので、気軽に弁護士に相談することからはじめてみてください。
まとめ
刑事事件と執行猶予についてのレポートでした。
- 刑の執行を一定期間猶予されるのが執行猶予
- 執行猶予は社会の中で更生を期待される制度
- 再犯でも執行猶予がつくこともある
執行猶予についての疑問や不安は解消できたでしょうか。
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