執行猶予つきの懲役刑で有罪に!前科はつく?就職への影響は?猶予満了で前科は消える?
「執行猶予付きの懲役刑が言い渡された…。これって前科がつくの?」
そのような疑問を抱えていらっしゃる方はいませんか?
「前科」とは聞きなじみのある言葉ですが、その細かい意味や影響についてまで詳細を知っている方は少ないかと思います。
- 執行猶予付きの懲役刑で前科はつくの?
- 前歴との違いは?戸籍には残る?
- 前科がついたときの影響について知りたい!就職できる?海外旅行は?
- 執行猶予の期間満了で前科は消えるの?
今回はこのような疑問について徹底的に解説していきます。
なお、専門的な解説は刑事事件を数多く取り扱い、刑事手続終了後の前科の影響などにも詳しいアトム法律事務所の弁護士にお願いしています。
よろしくお願いします。
前科がついたときには、再犯時の量刑に影響が出るばかりでなく、日常生活にも不便が生じる場合があります。
執行猶予付き判決を受けたときの前科について、この記事でしっかり学んでいってください。
目次
執行猶予付きの懲役刑で前科はつく?
執行猶予付き懲役刑で前科はつくのでしょうか?
それを解説するためにまずは
- 執行猶予の意味
- 前科の意味
を確認していきましょう。
執行猶予というのは、その名の通り刑の執行を一時的に猶予する制度のことです。
例えば懲役1年執行猶予3年となった場合、刑の言い渡しから3年間何も犯罪をせずに過ごせば懲役刑を受けなくてもよい、ということになります。
平成28年に結審された第一審の裁判においては、およそ6割の事件について執行猶予付き判決となりました。
有罪判決を受けると前科がつくの?前科とは何かについて解説
続いて前科を意味を解説していきます。
実は、前科は法律上明確に定義されていません。
一般用語として使われているに過ぎず、場面や使う人によって意味に揺らぎがあります。
前科の意味① |
---|
「有罪判決を受け、何かしらの刑を言い渡された」という意。 検察庁の管理する前科調書に名前が記載されているということと同義。 |
前科の意味② |
①のうち、時間の経過により刑の言い渡しの効力が法律上消滅したものを除いたもの。 |
前科の意味③ |
②のうち、さらに拘留、科料等の軽微な罰を除いたもの。 市区町村の管理する「犯罪人名簿」に名前が記載されているということと同義。 |
前科の意味④ |
「懲役刑や禁固刑等を受けて刑務所に入ったことがある」という意。 一般社会での通例的な用法。 |
今回は①②③の意味における前科についてそれぞれ解説していきます。
① 検察庁によって犯歴が記録されたことをもって前科とするとき
「検察庁に犯歴が登録されることをもって前科とする」
一般に使われている中で、最も広義の意味での前科となります。
検察庁は、有罪となった全ての人について、その犯歴を記録しています。
有罪判決を受けた者の犯歴は、検察庁のデータベースへの記録や保管がなされます。
要するに、何かしら有罪になった時点で前科として記録される、ということです。
記録されたデータは当該人物が死亡するまで、ずっと残り続けます。
既決犯罪通知書
検察庁には犯歴担当事務官という役職の職員がいます。
対象の裁判で有罪が確定したときには、既決犯罪通知書というものを作成します。
作成された既決犯罪通知書は地方検察庁に集約され、パソコン上へのデータの記録や保管がされていきます。
② ①のうち刑の言い渡し効力の消滅したものを除いたものを前科とするとき
検察に登録された犯歴は、死ぬまで消えることはありません。
しかし、刑法では前科について、その効力の及ぶ期間を定めています。
刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。
出典:刑法27条
こちらは、執行猶予つきの判決について、その効力の失われる期間を定めた条文です。
また、それ以外の刑罰についても効力の失われる期間が定められています。
刑の言い渡しの効力の消失
- 執行猶予期間中、きちんとおとなしくしたまま期間満了を迎えた者
- 刑務所出所から10年間、罰金以上の罪に問われなかった者
- 罰金以下の刑に処されてから5年間、罰金以上の罪に問われなかった者
などについて、刑の言い渡しの効力が消えます。
ただし、効力が消えたからといって、「刑の言い渡しを受けたという事実そのものまでもがなくなる」というわけではありません。
これは最高裁の判例にも示されています。
例えば、罰金刑を受けて5年が経過し、前科の効力が消えた後、また何か犯罪を犯した人がいたとします。
この当該人物の裁判において、検察や裁判官が、刑言い渡しの効力の消えた犯歴について経歴として参考とし、量刑を定めるのは適法とされます。
「刑の言い渡しの効力が失われる」というのは、あくまで法的効果が消滅するという意味であり、
刑が言い渡されたという事実そのものまでもがなくなるというわけではない
ということになります。
③市区町村の管理する犯罪人名簿に名前が載っているということをもって前科とするとき
今まで解説してきたことを踏まえ、続いては
「犯罪人名簿に名前が載っていることをもって前科とする」
こちらの意味の前科について解説していきます。
繰り返しになってしまいますが、検察庁の犯歴記録の手続きにおいては「既決犯罪通知書」という書類が作成されます。
作成された「既決犯罪通知書」の中でも、罰金以上(道交法関連の違反は禁固以上)の刑に処されたものについては、その者が戸籍を置く市区町村にも送付されます。
送付されてきた既決犯罪通知書をもとに、各市区町村は「犯罪人名簿」を作成します。
犯罪人名簿の意義
- 公職選挙法上、過去に犯罪を犯した一定の者は、選挙権や被選挙権を有さないとされている
- 弁護士や公務員、医師などについて、過去に一定の犯罪を犯しているという事実を欠格事由としたり、免許を与えない要件としている場合がある
行政上、こういった手続きについて円滑に進めるために犯罪人名簿は必要とされています。
「犯罪人名簿に名前があることをもって前科とする」という定義は、ある意味社会実務上の運用に最も近しいものと言えるでしょう。
なお、刑の言渡しの効力の消滅に合わせて、犯罪人名簿からも名前の記載が削除されるようです。
執行猶予付きの懲役刑は前科にならない?
「執行猶予がつくと前科にならない」
ネットを覗いてみるとこのように考えている方は多いようです。
しかし、執行猶予付きの懲役刑は、
- まず検察庁によって、既決犯罪通知書が作られて、検察庁内のデータベースに保管されます
- また、執行猶予付きの懲役刑は罰金刑よりも重いですから、市区町村の犯罪人名簿にも名前が載ります。
罰金や懲役刑を受けた人と同じように前科者として法的に制約を受けることになるわけです。
執行猶予の前科は戸籍に残る?
またネット上では、
「前科は戸籍に残る」
と思ってらっしゃる方が数多く見受けられました。
おそらくは犯罪人名簿と戸籍謄本について混同されて、それがそのまま情報として広まってしまったのだと思います。
前科は戸籍に残りません。
犯罪人名簿や、検察庁の犯歴のデータベースも一般に公開されることはありません。
公的な機関への問い合わせ等によって、一般の人が前科について知ることができる可能性は絶無です。
ただし、ネットや新聞など犯罪報道の記録などから前科について知られてしまうという可能性はあります。
前歴とはどう違う?
混同と言えば、前科と同じような意味で「前歴」という言葉を使っている方も見かけられます。
前歴というのは
過去捜査機関により犯罪の被疑者として検挙された事実
のことを言います。
ある意味では、広い前歴というくくりの中に、狭い前科というくくりがあるということになります。
- 書類送検を受けた
- 逮捕された
- 勾留された
- 微罪処分となった
- 不起訴となった
これらはすべて全て前歴となります。
前歴がついたからと言って特段、なにか法的に不都合が生じるわけではありません。
ただ、例えばもう一度罪を犯した時などには、検察官や裁判官による量刑の判断に対して影響を与える可能性はあります。
執行猶予付き判決で前科がついた!就職、海外旅行への影響とは
前科がついたとき、日常生活に一体どのような影響が出るのでしょうか。
今回は、前科がついた時の影響として主だったものとなる
- 就職する時の影響
- 海外渡航の影響
この2点について解説していきます。
就職への影響 履歴書に前科を書く必要はある?
まずは就職への影響についてです。
就職の際、「賞罰欄」のある履歴書の提示を求められたときには、前科を記載する必要があります。
賞罰欄の罰というのは、一般的には「確定した有罪判決のこと」と考えられています。
履歴書の賞罰欄について言及された仙台地裁の裁判例を参照してみましょう。
(略)
なお、履歴書の賞罰欄にいう「罰」とは一般に確定した有罪判決(いわゆる「前科」)を意味する
(略)
出典:仙台地裁 昭和60年9月19日 事件番号 昭和55年(ワ)第378号
判例上は、
- 履歴書に学歴、職歴、犯罪歴等を書くように言われたら正直に書かなければならない
- 履歴書中に「賞罰」に関する記載欄がある場合は、自分の前科を正確に記載しなければならない
- 履歴書の賞罰欄にいう「罰」とは確定した有罪判決(いわゆる「前科」)を意味し、前歴は含まれない
ということです。
この裁判例は、さらに刑の言い渡しの効力が消滅した前科についても言及しています。
(略)
既に刑の消滅した前科といえども(略)特段の事情のない限りは、労働者は使用者に対し既に刑の消滅をきたしている前科まで告知すべき信義則上の義務を負担するものではないと解するのが相当
(略)
出典:仙台地裁 昭和60年9月19日 事件番号 昭和55年(ワ)第378号
- 刑の消滅制度は前科を受けたという事実そのものを消滅させるものではない
- しかし、特別の事情がない限りは、刑の消滅した前科まで告知する必要はない
ということです。
前科の就職への影響のまとめ
- 賞罰欄のある履歴書の提示を求められたり、面接などで前科について聞かれたりしたときには正直に前科について答える必要がある。
- 刑の言い渡しの効力が消滅している場合は、よほど特別な事情がない限りわざわざ賞罰欄に前科を書く必要はない。
- 前歴についても書く必要はない
また、医師や弁護士、教員の資格について、前科のあることによって取り消されたり、あとから資格を取得することができなくなる場合もあります。
どの資格がどのような条件で取得できなくなるのか等については、資格によりその内容が異なるので、ご自身の取得したい、取得している資格について個々に調べてください。
海外旅行への影響 パスポートに前科が載る?
まず、パスポートに前科が載るということはありません。
しかし、前科があった場合、ビザの免除が受けられなかったり、国外永住の申請が通らなかったりする場合もあります。
前科がある時の海外渡航への影響 アメリカの例
アメリカは前科持ちの人の入国に対しては、かなり厳しい審査を行っています。
日本国籍の人は通常ビザが免除されるので申請をする必要はありません。
しかし前科がついている人はビザの発給が必要になるケースが多いのです。
ビザの発給の流れ
- ① 領事館にビザの発給を申請し
- ② 様々な書類を記入して
- ③ 前科についても裁判所等から資料を取り寄せ添付し、
- ④ 領事館に赴いて面談し
- ⑤ 米国において行われる審査を待つ
この手続きにはおよそ3か月もの月日をみる必要があると言われています。
しかも、ここまで手間をかけたからと言って、必ず申請が通るとは限らないのです。
前科がある時の海外渡航への影響 その他の国
その他の国については、前科について申告が必要になる例というのは少ないようです。
しかし、こればかりは各国の規定によるので一概には言えません。
特に重大犯罪を犯していた場合などには、ビザの免除が受けられないケースもあるようです。
前科は執行猶予期間満了で消えるのか?
今一度、執行猶予を受けた際の、刑の効力の消滅についておさらいしておきましょう。
刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。
出典:刑法27条
執行猶予の期間、何も犯罪をせずにいれば、刑の言い渡しについて効力は失われます。
刑の言い渡しの効力の消失
- 市区町村の「犯罪人名簿」からは通常、名前が削除される
- 履歴書の賞罰欄に、よほどの事情がない限りは前科としてそれを書く必要はなくなる
- 医師や弁護士等、前科が欠格事由になる資格や免許について、その影響を受けなくなる
つまり、社会復帰に向けて大いに道が開かれることになります。
注意点
「刑の言い渡しの効力が失われる」というのは、刑が言い渡されたという事実そのものまでもがなくなるということを意味するのではありません。
執行猶予期間満了の後、再犯した場合、検察官や裁判官はこの前科についても考慮して量刑を定めていきます。
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まとめ
今回は執行猶予における前科について解説してきました。
執行猶予判決における前科のまとめ
- 執行猶予付きの判決でも前科はつく。
- 犯歴は検察庁に全て記録され、そのうち罰金刑以上の者については市区町村でも記録される。
- 履歴書に賞罰欄がある場合、前科について正直に書かなくてはならない。
- 一定の条件を満たすと、「刑の言い渡しの効力の消滅」が起こり、法律的に前科の効力は消滅する。
- 「刑の言い渡しの効力の消滅」は前科の記録そのものが消滅することを意味しない
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執行猶予つきの懲役刑に関するQ&A
執行猶予付きの懲役刑は前科にならない?
まず、執行猶予というのは、刑の執行を一時的に猶予する制度の事です。執行猶予期間に罪を犯すことなく過ごせば懲役刑は受けなくてもよいのですが、執行猶予付きの懲役刑となった場合、前科者として法的に制約を受けることになります。「既決犯罪通知書」によって、検察庁内のデータベースに保管される他、市区町村の犯罪人名簿に名前が載ることとなります。これらのデータは一般公開されませんので、戸籍上に前科は残りません。 執行猶予付きの懲役刑による影響
前科がある場合は履歴書に書くべき?
「賞罰欄」のある履歴書の提示を求められたときには、正直に前科を記載する必要があります。賞罰欄における罰というのは、「確定した有罪判決のこと」であり、いわゆる「前科」を指します。前歴は含まれません。また特別な事情がない限り、刑の消滅した前科まで告知する必要はありません。 履歴書の賞罰欄についての解説
前科がパスポートに載ることはあるの?
パスポートに前科が載ることはありません。ただし、前科がついた場合には、ビザの免除プログラムが受けられなかったり、国外永住の申請が通らないことがあります。特にアメリカでは審査が厳しく、通常、日本国籍の持ち主であれば、ビザの免除がされますが、前科がついてしまうと、ビザの発給が必要になってきます。 前科がつくことによる国外への影響
執行猶予期間満了で前科は消える?
執行猶予付き判決を受けると、執行猶予の期間罪を犯すことなく過ごせば、刑の言い渡しについての効力は失われます。市区町村の「犯罪人名簿」から名前が削除される他、履歴書の賞罰欄に前科として書く必要がなくなります。このため、医師や弁護士等、前科があることで取れなかった資格や免許取得への影響も受けなくなるため、社会復帰への道が開けます。 執行猶予満了での前科の消滅について