盗撮犯が証拠隠滅をしたら?|証拠隠滅が与える影響・証拠隠滅罪で逮捕される可能性など
2023年7月13日以降の事件は「撮影罪」に問われます。
盗撮がバレてしまって、とっさに画像を消去する盗撮犯もいます。
まさに証拠隠滅行為ですね。
女子高校生のスカート内が見える位置にスマートフォンを差し出したとして、京都府警下京署は12日、府迷惑行為防止条例違反(卑わいな行為)容疑で(略)男(37)を現行犯逮捕した。
同署によると、府警鉄道警察隊員が男を呼び止めたところ、スマホを噛んで証拠隠滅を図り、止めようとした同隊員が手を噛まれた。
出典:産経WEST(2017年12月12日 22時12分)
この盗撮事件の犯人は、スカート内を盗撮した後、スマホを噛んで証拠隠滅したようです。
こんな証拠隠滅は、歯が丈夫じゃないとできないですよね・・・。
ここまで激しく証拠隠滅するかどうかは別として、
- 「スマホの画面をタップして盗撮画像をとっさに消した。」
- 「家宅捜索に備えて、家のPCを壊した。」
なんてケースも、ちらほら耳にします。
でも、証拠隠滅をしたことで何か不利益が生じないのでしょうか?
そこで、今回は、「盗撮犯が証拠隠滅をしたら?」と題して、
証拠隠滅をした場合の「刑罰」
を中心にレポートします。
加えて、「盗撮がどんな犯罪なのか」についても解説していきます。
具体的な刑罰や、成立する罪名については、刑事事件に力を入れているアトム法律事務所の弁護士にお願いします。
よろしくお願いします。
盗撮データを消去しても復元されてしまうことがあります。
そうなった場合、証拠隠滅をしたことも警察に発覚してしまいます。
証拠隠滅をした盗撮犯の刑罰の重さについて、実務の視点から、丁寧に説明していきたいと思います。
目次
そもそも「盗撮」は何罪?証拠隠滅した犯人は逮捕されない?
「盗撮」といっても、成立する犯罪は一つではありません。
成立する犯罪が数罪あります。
- ① 都道府県ごとに制定される「迷惑防止条例」の違反
- ②新設された撮影罪
- ③ 刑法の「住居侵入罪」や「建造物侵入罪」
- ④ 軽犯罪法違反
- ⑤ 児童ポルノ法違反
この中から、今回は、①、②、③を中心に解説していきます。
1.迷惑防止条例違反にあたる「盗撮」
(1)迷惑防止条例違反の盗撮で逮捕される犯人の特徴は?|「盗撮」の定義・構成要件
まず、スカート内の盗撮で迷惑防止条例違反に問われた盗撮犯のニュースを読んでみましょう。
この盗撮犯は、小型カメラを靴に忍ばせる方法で盗撮をしています。
靴に仕込んだ小型カメラで女性のスカート内を盗撮したとして、(略)署は11日、東京都迷惑防止条例違反(盗撮)容疑で(略)逮捕した。
(略)
逮捕容疑は10日午後8時ごろ、東京都板橋区内のスーパーで、靴に仕込んだ小型カメラを使って10代女性のスカート内を動画で撮影した疑い。
(略)
女性の周囲で不審な動きをしている(略)容疑者に気付いた人が通報。同署が事情を聴いたところ盗撮を認めたという。
出典:時事ドットコムニュース(2018年4月11日 18時24分)
この盗撮犯は、東京都の迷惑防止条例違反で逮捕されています。
迷惑防止条例とは、
公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止するための条例
の通称です。
さて、東京都の迷惑防止条例のなかで、盗撮の禁止に関する条文を読んでみましょう。
(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
第五条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
一 (略)
二 公衆便所、公衆浴場、公衆が使用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部若しくは一部を着けない状態でいる場所又は公共の場所若しくは公共の乗物において、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
三 (略)
出典:公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例第5条第1項第2号
この条文をまとめてみると、次のような感じになります。
先ほどの盗撮犯は、「スーパー」という誰もが出入りできる公共の場所で、「スカート内」という通常衣服で隠されている身体を盗撮していました。
そのため、下の表で確認すると、ガッツリ迷惑防止条例違反に問われてしまいます。
5条1項2号 | |
---|---|
盗撮の場所 | ・公衆が通常衣服の全部若しくは一部を着けないでいる場所 ・公共の場所 ・公共の乗物 |
盗撮の対象 | 通常衣服で隠されている下着や身体 |
処罰の対象行為 (盗撮その他の付随行為) | ・写真機等で撮影する行為 ・撮影目的で、写真機等を差し向ける行為 ・撮影目的で、写真機等を設置する行為 |
東京都の迷惑防止条例の全文について見てみたい方は、以下のリンクにとんでから、東京都の条例を検索してみてください。
昨今、厳罰化が進み、東京都の迷惑防止条例が改正される予定です。
改正後の条文はこちらで確認できます。
条例中、「盗撮」の改正点について説明すると、
盗撮が禁止される場所の範囲
が変わります。
いままでは、盗撮の場所は、公衆が利用する場所を中心に規制されていました。
しかし、改正後は、「人の住居」など個人の「家」のようなプライベートスペースの盗撮も、処罰されることになります。
平成30年7月1日施行の改正条例の内容は、次の表のとおりです。
5条1項2号 | |
---|---|
盗撮の場所 | ・公共の場所 ・公共の乗物 ===== ・住居 ・便所 ・浴場 ・更衣室 ・人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所 (公衆が利用する場所に限られない) ・学校 ・事務所 ・タクシー ・不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物 (例:カラオケボックスなど) |
盗撮の対象 | 通常衣服で隠されている下着や身体 |
行為 | ・写真機等で撮影する行為 ・撮影目的で、写真機等を差し向ける行為 ・撮影目的で、写真機等を設置する行為 |
ところで、迷惑防止条例は都道府県ごとに制定されているものです。
「東京都以外の都道府県では、どのような規定になっているのかな・・・。」
と思った人がいるのではないでしょうか?
盗撮の禁止条文としては、現時点では、改正前の東京都の条例と類似した規定の方法が多いです。
ただ、将来的には、改正後のような条文が増えていくと思われます。
(2)刑罰の重さは?|罰金だけじゃない「盗撮」の刑罰とは
このような迷惑防止条例に違反した場合、盗撮犯はどのような刑罰が科されてしまうのでしょうか。
東京都の場合では、原則として、
1月以上1年以下の懲役刑
または
100万円以下の罰金刑
が、科されます。
常習として「盗撮」をした場合には、
1月以上2年以下の懲役刑
または
100万円以下の罰金刑
が、科されます。
平成30年7月1日施行の改正条例でも、刑罰は変わらないようです。
東京都の条例で規定される刑罰を見やすくまとめてみました。
刑罰 | 常習の場合の刑罰 | |
---|---|---|
盗撮 | ・1月以上1年以下の懲役刑 ・1万円以上100万円以下の罰金刑 | ・1月以上2年以下の懲役刑 ・1万円以上100万円以下の罰金刑 |
東京都以外の条例だと、刑罰はどうなっているのでしょうか?
千葉県の迷惑防止条例違反の盗撮だと、次のような刑罰が規定されています。
刑罰 | 常習の場合の刑罰 | |
---|---|---|
盗撮 | ・1月以上6か月以下の懲役刑 ・1万円以上50万円以下の罰金刑 | ・1月以上1年以下の懲役刑 ・1万円以上100万円以下の罰金刑 |
東京都の条例よりも、千葉県の条例のほうが、刑罰が軽いようです。
このように、都道府県ごとに、盗撮の刑罰が違うので注意が必要です。
傾向としては、次のとおりです。
迷惑防止条例違反の盗撮
「懲役刑」の相場
- 6か月以下
- 1年以下
「罰金刑」の相場
- 50万円以下
- 100万円以下
「自分の都道府県では、どのような刑罰が科されるのかな・・・。」
そのように気になる方もいるでしょう。
こちらから、東京都や千葉県以外の迷惑防止条例も検索できますよ。
さて、次の項目では、「撮影罪」(性的な姿態を撮影する行為等の処罰(略)関する法律)に問われる盗撮事件について確認していきましょう。
2.新設された撮影罪にあたる「盗撮」
盗撮を取り締まる法律は元々存在せず、各都道府県の迷惑防止条例が適用されてきましたが、2023年7月に全国一律の処罰規定である撮影罪が導入されました。
撮影罪で取り締まられる盗撮は以下のような行為です。
第二条 次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
一 正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(略)を撮影する行為
イ 人の性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部をいう。(略))又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
ロ イに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等(略)がされている間における人の姿態
(性的な姿態を撮影する行為等の処罰(略)関する法律2条)
2023年7月以降の盗撮は、新設された撮影罪で処罰される可能性があります。
3.刑法の住居侵入罪にあたる「盗撮」
1.なぜ「盗撮」なのに「侵入」?|「住居侵入」「建造物侵入」と「盗撮」の関係
「侵入」と「撮影(盗撮)」は、違いますよね!?
でも、盗撮をしたとき、ケースによっては、刑法の「侵入」に当たってしまうことがあるんです。
「なぜ、住居侵入罪や建造物侵入罪で逮捕されるのだろう・・・。」
こんなふうに疑問に思ってしまう人もいるでしょう。
まず、住居侵入や建造物侵入について、刑法の条文を確認します。
(住居侵入等)
第百三十条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し(略)た者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
出典:刑法第130条
刑法の「侵入」と、条例違反の「盗撮」は、どういう関係にあるのでしょうか・・・。
建造物侵入罪などにいう「侵入」とは、建造物の管理者の意思に反して、立ち入ることをいいます。
建造物の管理権者であれば、盗撮目的で住居や施設への立ち入ることを許さないでしょう。
したがって、盗撮をするために、建造物に侵入した場合には、建造物侵入罪が成立します。
たとえば、盗撮犯が、
- 盗撮目的で「人の住居」に侵入すれば、住居侵入罪
- 盗撮目的で、公共施設などの建造物に侵入すれば、建造物侵入罪
で逮捕されます。
盗撮事件の内容によっては、迷惑防止条例違反と建造物侵入が同時に成立することもあります。
次のニュースは、住居侵入と迷惑防止条例違反が同時に成立し、裁判になった盗撮事件の報道です。
盗撮目的で女性宅に侵入したなどとして、住居侵入と県迷惑防止条例違反の罪に問われた(略)被告(59)に対し、(略)地裁(略)は15日、懲役2年、執行猶予4年(求刑懲役2年)を言い渡した。
(略)裁判官は「大胆で常習性が著しいが、各事件をすすんで認めており、一定の社会的制裁を受けている」と述べた。
判決によると、(略)被告は2016年11月18日、無施錠だった横浜市内の女性宅に下着を盗撮する目的で侵入したほか、昨年7月26日、横須賀市内の喫茶店トイレ内の壁に盗撮目的で小型カメラを設置するなどした。
出典:毎日新聞2018年5月16日 地方版
この事件では、懲役2年執行猶予4年の判決が出されています。
2.盗撮犯の刑罰の重さは?
盗撮が2つの罪名に該当する場合、
「どのくらい重い刑罰が科されるのか?」
と疑問に思う方もいるかもしれません。
刑罰の算定のされ方について少しだけお話ししておきます。先ほどの事件では、神奈川県の条例が問題になっていました。
神奈川県の迷惑防止条例では、盗撮目的で小型カメラを設置した場合、
1年以下の懲役または100万円以下の罰金
とされていて、さらに「常習」の場合だと、
2年以下の懲役または100万円以下の罰金
という刑事罰が、科されます。
表にまとめてみました。
懲役刑 | 罰金刑 | |
---|---|---|
①条例違反* | 1年以下 | 100万円以下 |
②条例違反* (常習) | 2年以下 | 100万円以下 |
③建造物侵入 | 3年以下 | 10万円以下 |
*新設された「撮影罪」の刑罰は「3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金」
さて、「盗撮」容疑で数罪の犯罪が成立する場合、刑罰はどうやって決められるのでしょうか。
裁判例では、盗撮犯が、建造物侵入罪と迷惑防止条例違反の両罪に問われた場合、
「科刑上一罪」
として処理されています。
建造物侵入罪の代わりに、住居侵入罪が成立した場合も、同様に考えられます。
さて、この「科刑上一罪」とは、成立する犯罪が数罪の場合、その刑罰のうち、最も重い刑罰が科されるという処理方法です。
懲役刑についていうと
- 条例に違反した「盗撮」の場合「1年以下」
- 刑法の「建造物侵入罪」の場合「3年以下」
でした。
両罪が成立する場合の懲役刑は、
「3年以下」の懲役
となります。
したがって、このような場合、言い渡される懲役刑の上限は「3年」です。
このように「3年」という刑罰の大枠が決められたら、その後さらに「様々な事情」が考慮されて、実際の刑罰が決められます。
この「様々な事情」というのは、いわゆる「情状」というものです。
たとえば、刑罰が重くされる情状としては、「反省の色がない」と裁判官に思われてしまうような事情があります。
具体的には、「証拠隠滅」をしてしまったなどの事情です・・・。
証拠隠滅をした盗撮犯人の刑事罰は?初犯でも不起訴にはならない?
1.盗撮の証拠隠滅は警察官にバレる?
「逮捕されたくないから、画像をとっさに消去してしまった・・・。」
しかし、盗撮画像を消去して証拠隠滅したつもりになっていても、復元されてしまうこともあるようです。
逮捕・書類送検された盗撮犯が、証拠隠滅を図ったけれど、盗撮画像が復元されてしまったというニュースを読んでみましょう。
入浴施設で父親と混浴している女児を狙った盗撮被害が全国で相次いでいる。大阪府警は昨年11月、男性脱衣所にいた女児の裸をスマートフォンで撮影したとして男を書類送検した。
(略)
「撮ったやろ!」。父親が一喝すると、男はスマートフォンを両手でへし折り証拠隠滅を図った。だが、府警が解析した結果、スマホから約10人分の別の女児の裸や着替えの様子を撮影した動画が見つかった。
出典:産経WEST(2018.1.31 21:13)
証拠隠滅を図っても、警察の捜査により結局バレてしまっています。
昨今、デジタルフォレンジックという復元方法が有名になってきています。
スマホの場合は、とくにモバイルフォレンジックと呼ばれています。
モバイルフォレンジック機器は、全国の警察署や交番に配備されている。もちろん強盗や殺人などの凶悪犯罪にも活躍するが、「盗撮の証拠を得る」などの目的で、交番でも日常的に活用されている。
(略)
携帯電話解析機の場合、iPhoneのパスコードロックを外した状態でUSB接続することで、通話履歴、アドレス帳、写真や動画といったデータはもちろん、SMSやMMSのメッセージデータ、さらにはゴミ箱ボタンで消去した写真ファイルも抜き出せる。
出典:ITpro Report(2016.5.13)
こんなハイテク機器があったら、盗撮画像の証拠隠滅はむずかしそうです・・・。
2.任意同行で済んでいたのに「後日逮捕」の可能性が出てくる?
(1)盗撮で逮捕される場合の「逮捕の種類」
盗撮をした場合、すべての盗撮事件で逮捕されるわけではありません。
逮捕の要件に当てはまってしまった場合に、盗撮犯は逮捕されます。
盗撮容疑で逮捕される場合、通常、2種類の方法が考えられます。
- ① 現行犯逮捕
- ② 後日逮捕(法律上、「通常逮捕」といわれる。)
このうち、「現行犯逮捕」とは、「現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者」が逮捕される逮捕手続です。
盗撮が、被害者にバレたり、目撃者にバレたりして、盗撮現場で捕まってしまったような場合です。
これに対して、「後日逮捕」とは、現行犯逮捕とは異なり、令状に基づいて後日逮捕される逮捕手続です。
現行犯逮捕と後日逮捕の違いについて、ザックリとまとめてみました。
逮捕される要件が違ったり、逮捕の権限をもっている人が違ったりします。
現行犯逮捕 | 後日逮捕 (通常逮捕) | |
---|---|---|
要件 | ・犯行の現行性・時間的接着性 ・犯罪・犯人の明白性 ・逮捕の必要性 | ・嫌疑の相当性 ・逮捕の必要性 |
令状の要否 | 不要 | 必要 |
逮捕権者 | 誰でも | 一部の警察官・検察官 |
具体例 | エスカレーターで、女性のスカート内を盗撮した。 盗撮を目撃されており、駅員によって逮捕された。 | 職場のトイレに盗撮用小型カメラを設置した。 その後、管理者によってカメラが発見された。 警察に通報され、逮捕状にもとづき逮捕された。 |
現行犯逮捕、後日逮捕ともに、共通している逮捕の要件があります。
それは、「逮捕の必要性」という要件です。
実は、盗撮の証拠隠滅をした場合、この「逮捕の必要性」という要件にひっかかってしまう可能性がでてきます。
次の項目で、「証拠隠滅」と「逮捕の可能性」について確認していきましょう。
(2)証拠隠滅をすると「逮捕される」って本当?
「逮捕の必要性」の要件を満たすのは、逃亡のおそれや・罪証隠滅のおそれがある場合です。
逮捕の必要性
- 逃亡のおそれ
- 罪証隠滅のおそれ
証拠を隠滅したような場合、「罪証隠滅」に該当します。
盗撮容疑に関していえば、
- 盗撮画像を消去
- 盗撮画像を保存していたPCの破壊
などの証拠隠滅をすると、「罪証隠滅のおそれ」があると判断されてしまうでしょう。
ひいては、「逮捕の必要性」の要件が満たされ、逮捕されてしまいます。
したがって、証拠隠滅をすると「逮捕される」というのは、本当です・・・。
(3)任意同行から「逮捕」されることはある?
盗撮容疑で警察から任意同行を求められることもあるでしょう。
警察に連行されて警察署までいき、取調べの過程で、
携帯していたスマホの提出を求められた
というようなことがあるかもしれません。
そのとき、
あわてて、スマホ内の盗撮画像を消去。それを警察に見られてしまった。
というようなことがあったら、「罪証隠滅のおそれ」アリと判断されて、警察署内で逮捕される可能性もあります。
3.初犯の盗撮は不起訴が多い?でも証拠隠滅すると・・・
初犯の盗撮犯は、犯罪傾向が進んでいないと考えられているため、容疑が十分でも不起訴になることも多いです。
このような「不起訴」のことを、「起訴猶予」なんて呼んだりもします。
起訴されるか不起訴とされるかは、検察官によって決定されます。
不起訴処分決定の際、次の条文にあるような事情が考慮されます。
犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
出典:刑事訴訟法第248条
証拠隠滅をしたことは、「悪い情状」として考慮される可能性があります。
しかし、証拠隠滅をしたことだけが過大評価されることはありません。
悪い情状だけではなく、よいと評価される情状や、犯行後の事情によって、不起訴を目指すことは十分できます。
たとえば、不起訴につながる事情としては次のような事情です。
不起訴につながる事情
- 被害者との示談を成立させた
- 被害者が宥恕している(被害者が犯人を許す意思を表明)
- 二度と盗撮をしないための対処策を講じた
- 前科前歴がない
- まじめに会社勤めをしている
実際に、証拠隠滅をしたけれど、不起訴処分になった盗撮事件を見てみましょう。
証拠隠滅しても不起訴だった事例
▼事案
大型雑貨店で、下段に陳列された商品をとるふりをして、近くにいた女性のスカート内を、スマホで撮影した。
消音アプリを使用して盗撮した計画的犯行。
▼犯罪
迷惑防止条例違反
▼証拠隠滅の方法
犯行後、逃走中に、道頓堀にスマホを投げ捨てた。
▼示談
あり。示談金120万円。
▼結論
不起訴
この事案では、盗撮直後の犯人は、逃走し、さらにスマホを投げ捨てるという罪証隠滅行為をしています。
このような証拠隠滅をした事案でも、不起訴になっています。
とっさに証拠隠滅してしまったとしても、不起訴処分をあきらめる必要はなさそうです。
4.多数の余罪について証拠隠滅した場合のデメリット
逮捕された盗撮事件とは別に、余罪が多数あるから隠してしまいたいと思う人もいるかもしれません。
そのようなとき、家のPCに保存してあった画像を消去してしまったら、どうなるのでしょうか?
このような証拠隠滅行為をしてしまった後に、家宅捜索などで、PCが押収されてしまったとします。
もちろん、警察は高度な復元技術を有しているため、盗撮画像が復元されて多数の余罪がバレてしまうこともあるでしょう。
そうなると、証拠隠滅をして余罪を隠そうとした態度から、
反省していないという印象
を与えてしまいます。そうなると、
- 悪い情状として起訴される決定の要素となる
- 量刑を重くする方向で考慮される事情となる
などの可能性があります。
盗撮の余罪捜査について気になる方は、こちらの記事もご覧ください。
さて、次に、証拠隠滅したこと自体に犯罪が成立する可能性について、解説していきます。
証拠隠滅のすべてが「証拠隠滅罪」になるわけじゃない|刑法の証拠隠滅罪とは?
1.盗撮した本人が自分で証拠隠滅をしたら証拠隠滅罪にならない?
盗撮画像を消去した行為そのものに、犯罪が成立することはあるのでしょうか?
盗撮画像の消去は、たしかに証拠隠滅していることになりますよね。
刑法に「証拠隠滅罪」という犯罪が存在しています。
刑法の条文を見てみましょう。
(証拠隠滅等)
第百四条 他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
出典:刑法第104条
この刑法の条文によれば、証拠隠滅罪が成立するのは、
他人の刑事事件に関する証拠
を証拠隠滅した場合です。
したがって、
自分の盗撮事件について、家のPCの盗撮画像を、自分で消去した
というような証拠隠滅については、証拠隠滅罪で処罰されることはありません。
ただ、自分の刑事事件でも、場合によっては、証拠隠滅罪に問われるケースがあると聞いたこともあるのですが・・・。
「自分の刑事事件」の証拠隠滅をしても、原則として、証拠隠滅罪には問われません。
しかし、他人を「教唆」して、自分の刑事事件の証拠を隠滅した場合には、証拠隠滅罪の教唆犯となってしまいます。
「教唆犯」というのは、罪を犯す意思のない人をそそのかして、犯罪実行の意思を生じさせることです。
証拠隠滅罪の教唆犯となってしまった場合、刑法104条に規定されている刑罰が科されてしまいます。
自分で証拠隠滅した場合は、証拠隠滅罪に問われないのに、
他人に、証拠隠滅させると証拠隠滅罪の刑罰が科せられてしまう
とは、驚きですね・・・。
証拠隠滅罪まとめ
- 自分の刑事事件では「証拠隠滅罪」にならない
- 誰かに証拠隠滅を頼むと「証拠隠滅罪の教唆犯」になる
ところで、自分が盗撮で逮捕されて警察に拘束されているとき、
家にいる親族が自分のことを心配して、家のPCを処分した
というケースもあるかもしれません。
そのような場合、親族は「他人」だから、証拠隠滅罪で処罰されてしまうのでしょうか?
親族は、赤の他人とは思えないですよね・・・。
2.盗撮犯の親族が証拠隠滅をしたら証拠隠滅罪になる?
親族であっても、盗撮犯の盗撮事件は、「他人の刑事事件」です。
したがって、盗撮事件の証拠隠滅をしてしまったら、先ほどの「証拠隠滅罪」に問われます。
しかし、刑罰が科されないことがあります。
刑罰の免除について、「親族による犯罪に関する特例」を見てみましょう。
(親族による犯罪に関する特例)
第百五条 前二条の罪については、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができる。
出典:刑法第105条
「その刑を免除することができる」という規定の方法に注意が必要です・・・。
「免除することができる」というのは、刑の裁量的免除を意味します。
つまり、免除されるときもあれば、免除されないときもあるということです。
さらに、刑罰が免除されるとしても、証拠隠滅罪そのものは成立しています。
したがって、
証拠隠滅罪の前科
がついてしまいます・・・。
盗撮犯(本人) | 盗撮犯の親族 | |
---|---|---|
証拠隠滅罪 (刑法104条) | ✖ | ◯ |
刑罰の免除 (刑法105条) | ― | △ (免除されることもある) |
証拠隠滅罪の教唆犯 (刑法61条1項) | ◯ | ◯ |
ところで、
「親族」って誰なんだ・・・。
そんな疑問がでてきますよね。
この親族に関する特例における「親族」の範囲は、民法の規定によります。
(親族の範囲)
第七百二十五条 次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族
出典:民法第725条
この民法の「親族」の範囲だと、「いとこ」のみならず、「はとこ」まで含まれることになります。
3.証拠隠滅罪の時効とは?
さて、刑事事件で気になるといえば、「刑罰」のほかに、「公訴時効」というのもあります。
「公訴時効」とは、犯罪をした後、一定期間の経過すると処罰されなくなる時効制度のことです。
証拠隠滅罪の時効が規定されている条文の内容を表にまとめました。
証拠隠滅罪の場合、刑事訴訟法250条2項6号に該当します。
法定刑 | 公訴時効の年数 | |
---|---|---|
1号 | 死刑に当たる罪 | 25年 |
2号 | 無期の懲役又は禁錮に当たる罪 | 15年 |
3号 | 長期十五年以上の懲役又は禁錮に当たる罪 | 10年 |
4号 | 長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪 | 7年 |
5号 | 長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪 | 5年 |
6号 | 長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪 | 3年 |
7号 | 拘留又は科料に当たる罪 | 1年 |
証拠隠滅罪の公訴時効だけでなく、「盗撮」で成立する犯罪についても、まとめておきましょう。
盗撮の時効
- 東京都の迷惑防止条例違反 :3年
- 建造物侵入罪(刑法130条) :3年
さて、さいごに、盗撮容疑で逮捕されたその後の流れについて確認していきましょう。
盗撮で逮捕されたらどうなる?|逮捕後の流れまとめ
1.逮捕後から起訴まで
逮捕されてから起訴までの一般的な流れについては、この図のとおりです。
警察による取調べ後、警察から検察へ、盗撮犯は送致されます。
その後、検察官のもとで「勾留」されて、盗撮事件の取調べを受けます。
逮捕されたときから、身体の拘束時間を合計すると、最長で23日間です。
その後、起訴されて刑事裁判にかけられるという流れです。
しかし、逮捕された後、釈放されるケースもあります。
身体を拘束されないで、捜査が進められる事件です。
これは、いわゆる「在宅事件」といわれるものです。
在宅事件の場合は、留置場に行く必要はありません。
警察からの呼び出しに応じて、警察署へ出頭するなどの必要はあります。
その後、警察から検察官へ、盗撮事件の捜査資料だけが送致されます。
これが、いわゆる「書類送検」です。
書類送検とは、捜査の書類の送致を、検察官にすることです。
盗撮犯の身体は検察へ送致されないので、検察官から取調べをうけるときは、家から出頭することになります。
2.起訴される前にすべき示談交渉とは?
警察から捜査資料が検察へ送致されて、いよいよ起訴か不起訴かが決められることになりますよね。
起訴されてしまえば、刑罰が科されたり、前科がつく可能性が出てきます。
盗撮事件で不起訴になるためには、どんな対処をすればいいのでしょうか?
このニュースでは、盗撮した人が不起訴になっているので、不起訴になる方法を確かめましょう。
都教委によると、男性教諭は昨年12月1日、都内の駅構内で女性のスカート内を盗撮したとして、目白署に逮捕された。
(略)12月の件は示談が成立し不起訴処分と(略)なったという。
出典:産経ニュース(2017.9.5 18:40)
このニュースから読み取れる対処の方法は、ズバリ「示談」です。
示談が成立すると、不起訴になりやすいといわれています。
さて、「示談」とは一体どのようなものなのでしょうか。
「示談」とは、民事上の紛争を、裁判によらずに、当事者間の話し合いで解決する契約のことです。
盗撮に対する慰謝料などの損害について、被害者から賠償請求をされることになります。
このような損害賠償に関する紛争について、民事裁判によらずに、話し合いで解決するのが「示談」です。
示談が成立すると、被害弁償が済むと、通常は処罰感情が軽減されたと評価されます。
したがって、不起訴になりやすいのです。
具体的な「示談の流れ」については、こちらをご覧ください。
盗撮事件の不起訴についての特集もあります。
こちらをご覧ください。
示談金の金額については、以下の画面をタップして調べられますよ。
もしも、盗撮の被害者が特定されていないような盗撮事件では、示談のほかに、贖罪寄付などの方法もあるので検討してみるのもよいかもしれません。
軽い気持ちでしてしまった「証拠隠滅」でお悩みの方は弁護士に相談
さいごに、弁護士さんに簡単に相談できる方法をご紹介しておきます。
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代表岡野武志(第二東京弁護士会)
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さきほどのスマホ相談とあわせてご活用ください。
さいごに
さて、今回は「盗撮犯が証拠隠滅をしたら?」と題してレポートしてきました。
盗撮犯が自分自身で証拠隠滅をした場合は、証拠隠滅罪には問われないようです。
自分の刑事事件の証拠を隠滅しても、刑法の「証拠隠滅罪」は成立しません。
しかし、盗撮画像の消去などの証拠隠滅は、「罪証隠滅」にあたるため、逮捕される可能性が高まります。
今後、不起訴を目指す場合には、被害者との示談交渉を進めていく必要がでてきます。
早ければ早いほど十分な対策がとれるので、お悩みの方はすぐに弁護士にご相談いただければと思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
盗撮の証拠を隠滅してしまって心配になってしまった方は、勇気を出して弁護士に相談しに行きましょう!
きっと力になってくれるはずです。
をぜひ積極的に活用していってください。
また、このサイト内には、盗撮についてのコンテンツがたくさんあります。
本記事以外で、盗撮に関して知っておきたい情報は『盗撮がバレた時の正しい対処法|示談で刑事処分を避け平穏な解決を』にまとめているので、興味がある方はご覧ください。
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