刑事事件で被害届を出されたらどうなる?出されたか確認できる?
被害届を出されたらどうなってしまうのだろうか・・・。
そんな不安をお持ちの人もいますよね!?
そこで、今回は、
- 被害届を出されたら、すぐに捜査が開始されるのか?
- 被害届では、どんな書き方をされるのか?
- 被害届を取り下げてもらうには、どうしたらいいのか?
など、レポートしていきます。
被害届の実情や、刑事事件の捜査に関する専門的な内容は、アトム法律事務所の弁護士にお願いしています。
被害届が出されたらどうなってしまうのかという不安について、実務の観点からお答えしていきます。
目次
被害届を出されたら刑事事件の捜査はどうなる?
被害届を出されても警察は捜査しない?【被害届の意味】とは?
被害届を出されたら、すぐに捜査されるイメージがありますよね。
でも、実際のところ、被害届が出されても、すぐに捜査されないこともあるようです。
被害届が出されたとしても、警察が捜査しないのならば、被害届は一体何のためにあるのでしょうか?
まず、「被害届」の意味を確認しておきましょう。
被害届は、捜査が開始されるきっかけの一つです。
逆にいえば、捜査開始のきっかけにはなるものの、捜査開始が義務になるわけではありません。
- 被害届を出されても、必ず捜査が開始されるわけではない
けれども、
被害届を出されたたら、捜査が開始されて逮捕されるかもしれない
という覚悟が必要になりそうです。
ちなみに、被害届の受理は、警察の義務とされているようです。
(被害届の受理)
第六十一条 警察官は、犯罪による被害の届出をする者があつたときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない。
2 前項の届出が口頭によるものであるときは、被害届(別記様式第六号)に記入を求め又は警察官が代書するものとする。この場合において、参考人供述調書を作成したときは、被害届の作成を省略することができる。
出典:犯罪捜査規範第61条
もちろん、立件できそうにない事件については、被害届が受理されないケースもあります。
もっとも、警察では、被害届の受理を迅速に行う傾向が高まってきているようです。
迅速・確実な被害の届出の受理について
被害の届出の受理については、犯罪捜査規範(昭和32年国家公安委員会規則第2号)第61条において、被害の届出をする者があったときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならないと規定されている。
しかし、近時、業務の多忙を理由に被害届の受理を先送りしたり、複数の都道府県警察に関係する事案に係る被害申告への対応が不十分なため重大な結果を招いた事案が発生するなど、被害の届出の受理をめぐり不適切な対応が見られるところである。
各都道府県警察にあっては、これらの事案を重く受け止め、被害者の要望に応える迅速・確実な被害の届出の受理がなされるよう、(略)徹底を図られたい。
出典:http://www.npa.go.jp/pdc/notification/keiji/keiki/keiki20120824.pdf
被害届を出されたら、受理されないケースに望みをかけるのではなく、受理されたケースを想定して万全の準備をしておきたいところです。
被害届なし・告訴ありだと捜査は義務?【告訴の意味】とは?
被害届が出されても、必ず捜査されるとは限りません。
これは、被害届が処罰を求める意思表示ではないということに起因するのかもしれません。
被害届に類似しているものとして、「告訴状」があります。
ここで、告訴の意味を確認しておきましょう。
告訴は、被害届と同じく、犯罪事実の申告をするものです。
そのため、両者とも、捜査開始のきっかけ(捜査の端緒)となります。
もっとも、告訴については、犯罪事実の申告に加えて、犯人の処罰を求める意思表示も含んでいる点で、被害届と異なります。
さらに、親告罪では、告訴がなければ起訴されないというきまりがあります。
被害届・告訴状と起訴の関係を表にまとめてみました。
親告罪 | 親告罪以外 | |
---|---|---|
被害届だけ | できない | できる |
告訴状だけ | できる | できる |
名誉棄損罪などが親告罪とされている。
告訴状についても、被害届と同じく、警察に受理義務が生じます。
司法警察員たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、管轄区域内の事件であるかどうかを問わず、この節に定めるところにより、これを受理しなければならない。
出典:犯罪捜査規範第63条第1項
さて、告訴状が出されて受理されたら、告訴の関係書類等を速やかに検察官に送付されることになります。
第二百四十二条 司法警察員は、告訴又は告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない。
出典:刑事訴訟法第242条
告訴状が出されたら、検察官によって起訴に値する事件かどうかを判断されることになります。
被害届が出されたときには、このような判断はされません。
似たような概念でも、違いがあるので覚えておきたいところです。
被害届を出されたかどうか知りたい…確認できる方法は?
ところで、自分に被害届が出されているのか確認することはできるのでしょうか?
被害届が出されて事情聴取される場合には、警察から連絡が入ります。
仮に、被害届が出されたか問い合わせを警察にしたところで、守秘義務の関係で教えてくれるかわかりません。
また仮に、ある犯罪で逮捕された時の取調べ中に、余罪の被害届が出されたか確認したいと思ったとします。
その場合でも、警察に答える義務があるとはいえないため、余罪の被害届が出されたか確認するのは難しいでしょう。
刑事事件で被害届を出されたらどうなる?|被害届受理後の流れ
被害届の書式を確認
ところで、被害届には、どのようなことが記載されるのでしょうか?
被害届の様式や、書き方について、カンタンに見ていきましょう。
①表題(被害届) ②提出日、宛名 ③届出人の住所・氏名・電話番号 ④「次のとおり、暴行被害がありましたので、お届けします。」という文言 ⑤被害の年月日時 ⑥被害の場所 ⑦被害の模様 ⑧犯人の住居、氏名または通称、人相、着衣、特徴盗 ⑨遺留品その他参考となるべき事項 被害届には、このような内容が記載されるようです。 |
あくまで一例です。
暴行の被害届について特筆するとすれば、
- 被害の模様には、「暴行の状況」、「ケガをした体の部位」、「全治するまでに要する期間」
- 遺留品その他参考となるべき事項には、ケガの診断書
について、記入されることになるでしょう。
ちなみに、犯人の住居・氏名等を被害者が知らない場合、その記載なくして提出されるようです。
後日逮捕までの流れ
さて、どんなふうに被害届が出されるのかは分かったけれど、
被害届が出された後、どのように捜査されて後日逮捕に至るのか
その流れが知りたいという方もいるのではないでしょうか?
これから、被害届が出されてから後日逮捕に至るまでの流れを見ていきましょう。
被害届が出されてから進められる捜査
これから、実際のニュースで、捜査の進み方を見ていきます。
次のニュースでは、教師が生徒に暴行した事件で被害届が出されています。
市立小学校で、20代の男性教諭が6年生の男児の顔を蹴る暴行をしていたことが市教委への取材でわかった。鼻のあたりの骨が折れる重傷を負ったとして、男児の保護者が(略)県警に被害届を出し、県警が教諭らから事情を聴いているという。
出典:朝日新聞デジタル(2018.1.26 22:57)
本人が入院中などで被害届を出せない場合、代理人が被害届を出すことができます。
この暴行事件では、生徒の保護者から被害届が出されています。
そして、犯人や犯行が明白な事件であるため、すぐに捜査が開始されたようです。
次の事件でも、被害届が出された時点で、犯人が分かっていたため、その後すぐに事情聴取がされています。
党を離党した(略)衆院議員(略)の元政策秘書の50代男性が、(略)暴行を受けたとして埼玉県警に被害届を提出した問題で、県警が(略)事情聴取していたことが関係者への取材で分かった。県警は傷害容疑での立件も視野に捜査を進めている。
出典:毎日新聞 2017.9.12 12:48(最終更新 2017.9.12 13:35)
この暴行事件の捜査の結果、暴行をしてしまった議員は書類送検されています。
元衆院議員(略 )が元秘書に暴言を吐いたり暴行したとされる問題で(略)県警は27日、傷害と暴行の疑いで(略)元議員を書類送検した。
(略)
県警は7月、男性からの被害届を受理し、捜査を始めていた。任意の事情聴取に対し(略)元議員は被害届の内容について「頭は殴っていない」などと一部を否定していたという。
(略)
6月22日発売の週刊誌「週刊新潮」の報道によれば、(略)元議員は5月、男性が車を運転中に後部座席から(略)罵声を浴びせ、頭や顔を数回殴ってけがをさせた。男性はその後、県警に被害に遭った当時の音声データや診断書などを提出した。
出典:産経ニュース(2017.10.27 12:41)
これらの事件では、被害者が犯人を知っているケースです。
そのため、被害届が出されたら、円滑に捜査が進められています。
しかし、被害者が犯人を知らない場合に、被害届提出後の捜査はどのように進められるのでしょうか?
窃盗などが問題になったニュースを見てみましょう。
民家から昨年6月末、現金1930万円などを盗み、翌月も現金71万円などを盗んで、さらに4日後に強盗に入ろうとしたとして、(略)県警は14日までに、17~19歳の少年6人を含む(略)9人を窃盗や強盗予備などの容疑で逮捕したと発表した。認否は明らかにしていない。
(略)
被害届を受けて警戒していた機動捜査隊員が、この日、家の近くで4少年を見つけ、職務質問したところ逃走したため、行方を追って逮捕したという。
出典:朝日新聞デジタル(2018.2.15 19:43)
この事件では、窃盗と強盗予備が問題になっています。
被害者としては、誰が犯人なのかわからない状態です。
このような場合に被害届が出されたら、犯行場所周辺の張り込みなどの捜査が開始されるようです。
また、防犯カメラがある場合には、防犯カメラの映像がチェックされます。
仕事先の百貨店で衣類を盗んだとして、(略)窃盗と建造物侵入の疑いで(略)容疑者(略)を逮捕した。容疑を否認しているという。
(略)
ジャケットが無くなっていることに店側が気付き、今月5日に被害届を提出。防犯カメラの映像などから同容疑者が関与した疑いが強まった。
出典:朝日新聞デジタル(2018.2.28 13:30)
現行犯逮捕されなかった万引きについては、防犯カメラの映像が重要な証拠とされることが多いです。
逮捕されたその後の流れ
実際に逮捕されたらどうなってしまうのか不安な人のために、逮捕されたその後の流れについて、ざっくりまとめておきます。
逮捕手続についてもっと詳しく知りたいという人は、以下のリンクも見てみてください。
また、勾留されたまま裁判が開始された場合、起訴後も続けて勾留されてしまいます。
その場合、家に帰るために保釈申請をする人が多いでしょう。
保釈申請の流れは、次のとおりです。
保釈申請・保釈金について、もっと知りたいという方は以下のリンクもcheckです!
保釈申請・保釈金について知りたい方は、コチラもご参照ください。
さて、次の項目では、被害届を取り下げてもらう方法について見ていきましょう。
刑事事件で被害届を出されたとしても取り下げてもらえる?
被害届の取り下げがあると釈放?【被害届取り下げ】の影響とは?
ところで、被害届の取り下げがあると、釈放してもらえることもあるようです。
妻の実家に侵入したとした住居侵入の疑いで現行犯逮捕された2日の事件で(略)署は被害者が被害届を取り下げたことから(略)容疑者を釈放した。
出典:民泊大学(2017.10.4 15:09)
次の事件では、被害届が取り下げられ、容疑者が釈放されたと報道されています。
5月30日、大阪市内の病院内の複数の女子トイレに、A4判の用紙が貼り付けられていたのを病院関係者が見つけた。
「○○○(20歳代の男性の実名)は最低最悪の人間です。存在価値がありません。」
すぐに病院関係者が実名を挙げられた男性に連絡。その日のうちに男性は警察署に駆け込んだ。男性は「紙を見て怖くなった」として被害届を提出。府警は名誉毀損容疑で捜査を始めた。
防犯カメラの映像などから、(略)被害男性の知人(略)は6月4日、名誉毀損容疑で逮捕された。「すべてその通り、間違いありません」と素直に容疑を認めたという。
(略)捜査が始まった直後の7日、被害届は取り下げられ、(略)釈放された。示談も成立し、20日には不起訴となった。
出典:産経WEST(2017.6.29 12:00)
被害届の取り下げは、被害者の処罰感情が軽減されたことを意味します。
そのため、釈放されたり、不起訴につながる可能性がでてきます。
名誉棄損罪に関していうと、名誉棄損罪は親告罪のため、告訴がなければ起訴されません。
この事件では、被害届が取り下げられた時点で、告訴の可能性がなくなったため釈放され、示談交渉も並行して進められていたものと思われます。
被害届と取り下げ、示談については『被害届の取り下げは示談で|被害届の取り下げ方法、取り下げ書の提出期間も解説します』もご覧ください。
さて、次に示談について確認していきましょう。
被害届の取り下げは示談書で約束…【示談の流れ】とは?
示談とは
被害届の取り下げは、示談の際に作成する「示談書」に明記してもらうと安心です。
では、この「示談」とは、どのようなものなのか確認していきましょう。
示談が成立すると、加害者は、事件の損害を考慮して定めた示談金を、被害者に支払います。
被害者においては、その示談金のほかに賠償請求ができません。
このように、事件の損害に関する紛争を、当事者で解決するのが示談です。
では、示談書では、どのような内容が明記されるのでしょうか。
- ① 加害者の、謝意
- ② 加害者の、示談金を支払う義務
- ③ 示談書に定めるほか何らの債権債務も存在しないことの確認(清算条項)
- ④ 接触禁止条項
- ⑤ 被害者が、加害者を許す意思(宥恕条項)
⑥被害届の、被害届取り下げ・告訴取り消し
などが、明記されます。
これらの内容は、すべて示談書に明記しなければならないわけではありません。
もっとも、示談は、示談金の支払いが要なので、少なくとも、①、②、③が必要になるでしょう。
示談書の書式については、以下のリンクを参考にしてみてください。
示談の流れ
示談の流れは、次の図のとおりです。
通常、被害者は、加害者に直接連絡先を教えたがらないため、弁護士を通して示談をすることになります。
被害者の承諾がある場合、弁護士が検察官から被害者の連絡先を聞いて、示談交渉を始めます。
示談の流れについてもっと知りたい方は、以下のリンクも見てみてください。
取り下げ書の書き方は?【被害届の取り下げ書】書式を確認
示談書に被害届の取り下げを明記したとしても、実際に取り下げてもらわなければ意味がありませんよね。
そこで、気になるのが、被害届の取り下げ方です。
被害届を出された側は、被害届を取り下げることはできませんが、一応、どのような書き方をするのか見ておきましょう。
被害届取り下げ書
平成◯◯年◯月◯日 本日、被疑者●●●●に係る●●被疑事件につきまして、被害届を取り下げます。 |
被害届取り下げ書には、
- 被害届を取り下げる旨
- 取り下げる事件を特定するための情報(被疑者氏名、事件名等)
が記載されます。
なお、被害届の取り下げについては『被害届の取り下げは示談で|被害届の取り下げ方法、取り下げ書の提出期間も解説します』で詳しく特集しているので、是非ご覧ください。
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- 被害届を出されたから、急ピッチで逮捕に備えたい
- 被害届を出されたと警察から連絡があったけれど、どうしたらいいかわからない
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- 被害届が出されたら、すぐに捜査されて逮捕されるケースもある
- 被害届がだされたとしても、取り下げてもらえば釈放されることもある
このような情報をまとめてきました。
その場合、逮捕を想定して、被害届の取り下げや示談の交渉の準備を、迅速に進める必要があります。
早い段階で被害者に対し真摯な態度を示すことは、示談への大きな一歩となります。
お悩みの方は今のうちに弁護士にご相談いただければと思います。