被害届の取り下げは示談で|被害届の取り下げ方法、取り下げ書の提出期間も解説します
- 被害届の取り下げがあると、釈放される
- 被害届を取り下げるのは、示談といっしょにするらしい
こんなことを聞いた方もいるのではないでしょうか?
そこで、今回は、「被害届の取り下げ」についてレポートしていきます。
被害届や示談についての詳しい説明は、刑事事件に精通するアトム法律事務所の弁護士にお願いします。
目次
被害届を取り下げると不起訴で釈放?|刑事事件の起訴と被害届の取り下げ
被害届の取り下げで、不起訴になるのはなぜ?
『刑事事件で被害届を出された後の流れ』で特集しているのですが、被害届が提出されることで、逮捕・拘留・起訴のおそれが生じます。
となると「被害届を出されてしまった・・・。このまま起訴か。」
と、思っている人もいるでしょう。
しかし、そうとは限りません。
被害者の処罰感情が軽減されれば、不起訴の可能性も出てきます。
次のニュースでは、処罰感情と不起訴の関係について言及されていますよ。
元横綱(略)を傷害容疑で書類送検した。被害届が10月29日に県警に出されてから約1カ月余りでの送検。
(略)
書類送検を受けた(略)地検は、元横綱を改めて事情聴取するとともに、(略)処罰感情も確認して起訴・不起訴(起訴猶予)の刑事処分を決めるとみられる。判断の基準は暴行の結果の重大性や悪質性、示談成立の有無などの情状面がポイントとなる。
元横綱は責任を取って引退しており、社会的制裁を受けたと判断し、公判を請求せず略式起訴や起訴猶予にする可能性もある。傷害罪の法定刑は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金。
出典:時事ドットコムニュース(2017.12.11 11:46)
ニュースによると、検察官は、
処罰感情も確認して起訴・不起訴の刑事処分を決める
とのことです。
でも、処罰感情が強いのか弱いのか、軽減されたのかという点については、どんな指標があるのでしょうか?
処罰感情が軽減された指標の一つは、被害届の取り下げ
被害届とは、被害の申告をするものです。
被害届の取り下げは、被害の申告を取り下げることを意味するため、処罰感情の軽減を表す客観的な事情となります。
したがって、被害届の取り下げという事情は、検察官が不起訴処分を検討する方向で影響します。
さて、ここで「被害届の取り下げ」が、不起訴につながった実例を少しご紹介しておきます。
実例①
▼事案
公営駐車場の公衆トイレの個室にカメラを差し入れ、女性を盗撮した。
▼成立する犯罪
- 建造物侵入罪
- 迷惑防止条例違反
▼被害届取り下げの状況
- 前科があるため公判請求がかなりの確率で見込まれていた。
- 被害届取下げ書を作成。
- 示談書の中で、被害者の宥恕と、起訴はやめてほしい旨を明記。
- 被害者から検察に起訴を見送ってほしい旨、直談判。
▼結果
不起訴
この実例①では、被害届の取り下げのほか、被害者から不起訴にしてほしいとの申入れがされています。
被害者が起訴を望まない意思が強く、不起訴処分となっています。
では、ほかの実例も見てみましょう。
次の事案は、傷害事件です。
実例②
▼事案
夫婦喧嘩がエスカレートして、傷害事件になり、夫が逮捕された。
▼成立する犯罪
傷害事件(DV)
▼被害届取り下げの状況
- 被害届取り下げ書と、示談書を作成。その後、勾留請求なしで釈放、不起訴に至る。
- 捜査機関側から、「弁護士が入らないと、被害届の取り下げを認めない」と忠告された。
▼結果
不起訴
この実例②は、夫婦間の事件です。
しかし、被害届、被害届の取り下げ書、示談書などの書面は、夫婦間の事件であっても作成できます。
DVを受けた妻が被害届を出すようなケースもよくあります。
傷害事件の被害届取り下げについては『傷害事件は被害届で逮捕される?被害届の提出期限、時効、被害届の取り下げを解説する』でも解説しているので、興味がある方はご覧ください!
さいごに、詐欺の事案を見てみましょう。
実例③
▼事案
開運グッズを不特定多数人に売りつけて、金員をだまし取った。
▼成立する犯罪
詐欺罪
▼被害届取り下げの状況
示談が成立し、被害届も取り下げられ、不起訴に至る。
▼結果
不起訴
こちらの事件でも、被害届が取り下げられ、不起訴になっています。
親告罪は、告訴が取り消されれば不起訴
親告罪とは、告訴がなければ起訴されない犯罪です。
- 親告罪なのに被害届しか出されていない場合
- 告訴状が、後日、取り消された場合
など、起訴されません。
ときどき、「親告罪の被害届が取り下げられたため、不起訴になった」というようなニュースを目にします。
ですが、このようなニュースについては。
親告罪について告訴がなかった
または
被害届の取り下げとともに、告訴が取り消された
というような場面が想定されます。
市内で発生した車の器物損壊事件で、翌11月に同署員が男性を任意聴取。(略)器物損壊事件では、被害届が取り下げられたため、男性は不起訴処分になっている。
出典:産経WEST(2017.10.12 21:15)
上のニュースは、器物損壊罪が問題になっています。
器物損壊罪は、親告罪とされています。
被害届が取り下げられているということは、告訴がない状態と考えられます。
したがって、この事件では、不起訴処分とされたのでしょう。
被害届の取り下げで、前科・前歴はつかない?
被害届の取り下げと「前科」
被害届が出されると、自分が犯罪をしたことが警察にバレてしまうから、前科・前歴がつくのでは?
こんな不安をお持ちの方もいるでしょう。
そもそも、まず、前科の意味を確認しておきましょう。
「前科」とは、確定判決で刑の言渡しを受けた事実をいいます。
被害届が出された時点では、まだ判決はおろか、裁判は始まってもいません。
したがって、被害届が出されただけで、「前科」がつくことはありません。
一方で、被害届が取り下げられたとしても、起訴され確定判決で刑の言渡しを受けた場合、「前科」はつきます。
前科は、確定判決で刑の言渡しを受けたかどうかの問題です。
そのため、被害届の取り下げの有無は、前科の有無に直結しません。
もっとも、被害届が取り下げにより、検察官が起訴をとどまる可能性は高いです。
逆に、被害届が取り下げがなければ、不起訴になる可能性は低いです。
したがって、被害届が取り下げられなかったことで、裁判に発展し、前科がつくということが考えられます。
被害届の取り下げと「前歴」
前科がつくかどうかについては、被害届の取り下げが、事実上影響することはありました。
では、「前歴」については、どうでしょう。
まず、「前歴」の意味について確認しておきましょう。
前歴とは、捜査機関により被疑者として捜査対象となった事実(履歴)をいいます。
前歴を逮捕された履歴として考えることもありますが、逮捕の履歴は特に逮捕歴といって、前歴と区別することもあります。
被害届が受理された時点で、前歴として捜査機関にその履歴は残りますが、逮捕されていなければ逮捕歴はつきません。
例えば、被害届が出された後に、捜査をされて逮捕された事例を考えてみます。
この逮捕後に、被害届が取り下げられたとしても、捜査履歴や逮捕歴は消えません。
したがって、被害届の取り下げがあっても、前歴はついたままです。
もっとも、前歴は一般的に公開される情報ではないので、社会生活を送る上で通常不利益は生じません。
前科や前歴についてもっと知りたいという方は、以下のリンクも見てみてください。
さて、次の項目では、示談について見ていきましょう。
被害届の取り下げ方法は示談?|示談と被害届の取り下げの関係
示談の流れ・示談金について
示談の流れ
まずは、示談の流れについて、カンタンにまとめておきましょう。
下の図をご覧ください。
この図は「示談の流れ」を表したものです。
示談交渉は、通常、弁護士を介して行うことになります。
被害者としては、加害者に連絡先を教えることに抵抗があるからです。
弁護士は、被害者の承諾のある場合に、捜査機関から連絡先を聞きます。
そして、示談交渉を進めていきます。
示談の成立と処罰感情
さて、
「被害届の取り下げについては、示談と一緒のタイミングでしないといけない?」
というようなギモンをもつ人もいますよね!?
そもそも、示談とは、どういったものなのでしょうか。
示談とは、民事上の紛争について、裁判外における当事者間の話合いによって解決することです。
示談は、刑事手続ではありません。
しかし、示談が成立すると、刑事処分において不起訴や、量刑が軽減されることがあります。
先ほどご紹介した通り、被害者の処罰感情が軽減する事情があれば、不起訴の可能性がより大きくなってきます。
示談の成立も、被害届の取り下げとともに、処罰感情の軽減にかかわる事情のひとつです。
示談と一緒のタイミングで、被害届の取り下げについて交渉することも多くあります。
示談書に被害届の取り下げを明記すべき?
示談とは別のタイミングに、被害届を取り下げてもらうことも可能です。
しかし、加害者としては、被害届取り下げを見込んで、示談金を払うことがあります。
そのため、被害届の取り下げを約束していた旨を、示談書に明記しておくことが重要です。
また、被害者が加害者を許しており、処罰を望まない場合もあります。
そのような場合には、宥恕条項とともに、被害届の取り下げを約する条項を明記することで、処罰感情の軽減を際立たせることができます。
窃盗罪の示談金
さて、ここで気になってくることは、
実際にどのくらいの示談金が必要なのか
ということでしょう。
これから、実例をもとに示談金の金額をチェックしていきましょう。
さいしょの実例は、窃盗罪です。
窃盗の示談金①
▼事案
ショッピングモールで、洋服1着(9180円相当)を万引きした。
▼示談金
9180円
▼処罰感情
宥恕
▼結論
不起訴
窃盗示談金②
▼事案
元勤務先の店舗に侵入して、現金約20万円を盗んだ。
▼示談金
200万円
▼処罰感情
宥恕
▼結論
不起訴
同じ窃盗でも、万引きと侵入盗では、まったく示談金が異なっています。
窃盗罪の示談金についてもっと知りたいという方は、以下のリンクも見てみてください。
どのような事件で、どのくらいの示談金が支払われたか
について調べることもできます。
「窃盗・詐欺」をタップして示談金を見てみてください。
傷害罪の示談金
さて、今度は「傷害罪」の示談金の実例について見てみましょう。
傷害罪の示談金①
▼事案
元従業員の後頭部を、のこぎりで殴打してケガをさせた。
▼示談金
25万円
▼処罰感情
宥恕
▼結論
不起訴
傷害罪の示談金②
▼事案
駅構内で、被害者の腕をハサミできりつけてケガをさせた。
▼示談金
95万円
▼処罰感情
宥恕
▼結論
不起訴
同じ傷害罪でも、示談金の金額には開きがありますね。
傷害罪の示談金についてもっと知りたい方は、以下のリンクもご覧ください。
恐喝罪の示談金
では、最後にもうひとつ、「恐喝罪」の示談金について見てみましょう。
恐喝罪の示談金①
▼事案
少年らが、SNSで知り合った被害者を呼び出して、現金約1万円、財布(2万円相当)を喝取した上、ATMで現金13万円を引き出させて喝取した。
▼示談金
20万円
▼処罰感情
相当
▼結論
家庭裁判所の審判により、中等少年院送致、一般短期処遇
恐喝罪の示談金②
▼事案
別れ話の際に、交際相手である女性やその家族を脅して、現金約350万円を要求した。
▼示談金
100万円
▼処罰感情
宥恕
▼結論
不起訴
ひとえに恐喝といっても、様々な事案があって、それに対応して示談金も異なっています。
恐喝罪の示談金についてもっと知りたい方は、以下のリンクもご覧ください!
最後に、示談に関して知っておきたい情報は下記にまとめておきました
ご興味がある方は是非見てみてくださいね。
刑事事件の示談について知りたい方はこちら
被害届の取り下げ書|書式(雛形)、提出期間について
被害届の取り下げ書の書式(雛形)
では、被害届の取り下げ書についても、確認しておきましょう。
被害届の取り下げ書には、
- 被害届を取り下げる旨の記載
- 事件特定のための、事件名、被疑者氏名
が記載されます。
次の図は、書式の一例です。
被害届取り下げ書
平成◯◯年◯月◯日 本日、被疑者●●●●に係る●●被疑事件につきまして、被害届を取り下げます。 |
被害届取り下げ書は、被害者から捜査機関に提出されます。
示談が成立しているときは、
- 被害届取り下げ書(原本)
- 示談書(写し)
をいっしょにして、警察へ提出されることが多いです。
被害届の取り下げ書の提出期間
せっかく示談ができて被害届も取り下げてもらえそうなのに、被害届の取り下げ書の提出期間に間に合わなかったらどうしよう・・・。
そんな不安をお持ちの方もいるでしょう。
被害届の取り下げ書の提出期間については、明確なルールはありません。
もっとも、被害届の取り下げによって、
- 保釈
- 不起訴
- 量刑の軽減
を目指すのであれば、それに間に合うタイミングで提出してもらうことが必要です。
ちなみに、告訴の場合は、取り消し期間があります。
第二百三十七条 告訴は、公訴の提起があるまでこれを取り消すことができる。
出典:刑事訴訟法第237条第1項
被害届ではなくて、告訴状が出されていた場合には、
起訴状が裁判所に受理されるまで
に、告訴を取り消してもらう必要があります。
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さいごに一言
被害届が取り下げられると、保釈や不起訴の可能性が広がることがわかりました。
被害届の取り下げがあれば必ず不起訴というわけではありません。
ですが、示談交渉の過程で被害届を取り下げてもらうことで、不起訴の可能性は広がります。
被害者との交渉は、とてもデリケートな問題なので、じっくり取り組む必要があります。
被害届が出されたことが現時点でわかっている場合、今すぐ弁護士と今後の対策をご相談されることをおすすめします。
まとめ
今回は、「被害届の取り下げ」についてレポートしてきました。
被害届を取り下げについてお悩みのある方は、無料相談なども活用して弁護士に相談してみませんか?
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また、このサイト内には、傷害事件についてのコンテンツがたくさんあります。
示談について知っておきたい情報は『示談で被害者にゆるしてほしい!刑事処分が軽くなるトラブル解決方法』にまとめているので、興味がある方はご覧ください。
さらに、関連記事も要チェックです!
被害届の取り下げについてのQ&A
被害届の取り下げで、不起訴になるのはなぜ?
被害届とは、被害の申告をするものです。被害届の取り下げは、被害の申告を取り下げることを意味するため、処罰感情の軽減を表す客観的な事情となります。したがって、被害届の取り下げという事情は、検察官が不起訴処分を検討する方向で影響します。 被害届の取り下げで、不起訴になる理由
被害届の取り下げで、前科・前歴はつかない?
前科とは、確定判決で刑の言渡しを受けた事実をいいます。被害届が出されただけで前科がつくことはありません。一方で、被害届が取り下げられたとしても、検察官から起訴され確定判決で刑の言渡しを受けた場合、前科がつきます。前歴とは、捜査機関により被疑者として捜査対象となった事実(履歴)をいいます。被害届が受理された時点で捜査機関に前歴が残りますが、逮捕されていなければ逮捕歴はつきません。 被害届の取り下げで、前科・前歴はつくのか
示談の流れ、示談の成立と処罰感情は?
示談とは、民事上の紛争について、裁判外における当事者間の話合いによって解決することです。示談は刑事手続ではありません。示談が成立すると、刑事処分において、不起訴や量刑の軽減がされることがあります。示談交渉は通常弁護士を介して行うことになります。被害者は加害者に連絡先を教えることに抵抗があるからです。弁護士は被害者の承諾のある場合に、捜査機関から連絡先を聞いて、示談交渉を進めていきます。 示談の流れ、示談の成立と処罰感情を解説
示談書に被害届の取り下げを明記すべき?
示談とは別のタイミングに、被害届を取り下げてもらうことも可能です。加害者としては被害届取り下げを見込んで、示談金を払うことがあります。そのため、被害届の取り下げを約束していた旨を、示談書に明記しておくことが重要です。また被害者が加害者を許しており、処罰を望まない場合もあります。その際、宥恕条項とともに、被害届の取り下げを約する条項を明記することで、処罰感情の軽減を際立たせることができます。 示談書に被害届の取り下げを明記すべきか
示談書の書式は?どのようなことを書くのか?
示談書には、示談の当事者、示談の対象となる事件のほか、①加害者の謝意、②加害者の示談金支払い義務③清算条項④接触禁止条項⑤宥恕条項⑥被害届の取り下げ、告訴の取り消しを約する条項などが記載されます。 示談書の書式や書く内容を解説
被害届の取り下げ書の書式は?
被害届の取り下げ書には、被害届を取り下げる旨の記載、事件特定のための事件名、被疑者氏名が記載されます。被害届取り下げ書は、被害者から捜査機関に提出されます。示談が成立しているときは、被害届取り下げ書(原本)、示談書(写し)をいっしょにして、警察へ提出されることが多いです。 被害届の取り下げ書の書式を解説
被害届の取り下げ書の提出期間はある?
被害届の取り下げ書の提出期間については、明確なルールはありません。保釈、不起訴、量刑の軽減を目指すのであれば、それに間に合うタイミングで提出してもらうことが必要です。告訴の場合は、取り消し期間があります。被害届ではなくて、告訴状が出されていた場合には、起訴状が裁判所に受理されるまでに、告訴を取り消してもらう必要があります。 被害届の取り下げ書の提出期間を解説