万引きの通常逮捕とは後日逮捕のこと?通常逮捕の要件・流れ・条文をチェック
- 「万引きした後に逃げたけれど、通常逮捕されることはあるの?」
- 「万引きをして通常逮捕された後、どうなるの?」
このような不安をお持ちの方もいるでしょう。
今回は、「万引きの通常逮捕」についてレポートします。
- 万引きが通常逮捕された例
- 万引きが通常逮捕される条件
などをお届けします。
通常逮捕の手続など法律上の問題については、刑事弁護を得意とするアトム法律事務所の弁護士にお願いします。
目次
万引きの通常逮捕とは…通常逮捕の要件を条文で確認!
1.万引きは現行犯でしか逮捕されない?後日逮捕(通常逮捕)されたニュース
皆さんは、
「万引きは後日逮捕が難しいから現行犯逮捕でしか逮捕されない」
という話を聞いたことがあるでしょうか?
「現行犯逮捕」というのは、
- 逮捕者の目の前で、罪を行っている最中に逮捕される
- 罪を行い終わったところで逮捕される
といった逮捕のパターンです。
万引きの現行犯逮捕は、
スーパー店内の食糧品をエコバックに入れて万引きした直後、万引きGメンに現行犯逮捕される
というようなパターンが想定されます。
(1)万引きは現行犯だけ?後日逮捕(通常逮捕)されない?その真相とは…
「万引きは現行犯逮捕でしか逮捕されない」といわれる原因は、
万引きの証拠が残りにくい
という点にあります。
万引きした商品を
- 消費してしまったり、
- 転売してしまったり
することで、万引きの証拠がなくなってしまうのです・・・。
万引きGメンの方が、万引き逮捕について、こんな経験談を公表しています。
しばらく巡回していると、酒売場に佇む(略)おじいさんが気になりました。(略)研修時に教わった注意すべき不審者の条件が全て合致しているような状況を前にした私は、見た目の雰囲気からもお金を持っているとは思えなかったこともあって、棚の陰から、おじいさんの行動を見守ることにしました。
(略)
それからまもなく、左右に視線を送りながら棚に手を伸ばしたおじいさんは、カップ酒を鷲つかみにすると、ダイレクトに上着のポケットの中に隠しました。(略)おじいさんは店の外に出てしまい、出口の前にあるベンチに座り盗んだカップ酒をあけて飲み始めてしまいました。
(早く声をかけなければ証拠がなくなってしまう。でも、やっぱり怖い……)
(略)
私たちに声をかけられると同時に、おじいさんは歩いて逃走を図りましたが、すぐに転んでしまい店長に取り押さえられました。
出典:サイゾーウーマン(2018.04.28)
ただし、万引きした商品を消費したからといって、まったく証拠が残らないというわけではありません。
防犯カメラの映像
などは、万引きの証拠となります。
そうなると、防犯カメラの映像から、犯人特定に至り、後日逮捕されるケースがあります。
(2)万引きが現行犯ではなく後日逮捕(通常逮捕)されることもある!万引きが報道されたニュースとは…
実際に、万引きで後日逮捕されたニュースを読んでみましょう。
商業施設で高級なベビー用品を万引したとして、(略)署は窃盗の疑いで、(略)容疑者(37)を逮捕した。容疑を認めている。
逮捕容疑は、平成29年12月22日午前11時20分ごろから午後1時10分ごろまでの間に、(略)商業施設2カ所で、高級ブランドのベビー用品「抱っこひも」計10点(販売価格計約25万円)を万引したとしている。
同署によると、商業施設の防犯カメラの映像から(略)容疑者の関与が浮上したという。(略)容疑者は犯行後、(略)市内のリサイクルショップで盗品を転売していた。
出典:産経ニュース(2018.3.10 07:19)
この万引き事件では、万引きした商品が、その後転売されています。
実店舗に転売したり、フリマアプリで転売すると、転売履歴が残ります。
このような
盗品の転売履歴
についても、犯人特定の重要な証拠となる可能性があります。
関東地方など6県20校の高校から硬式野球ボールが大量に盗まれた事件で、(略)無職男ら2人が逮捕された。被害は約9300個、総被害額は284万円に上るという。これらのボールはフリーマーケットの人気サイト(略)に出品されていた。毎日新聞によると、容疑者らは320球を3万5000円、1000球を10万円で出品していたという。
出典:アサジョ 2017年10月4日 18時15分 (2017年10月6日 07時03分 更新)
本屋の店内で万引きした本を、フリマサイトで転売したために、逮捕されたというニュースも報道されています。
徳島県内大手書店(略)で、ダイエット関連などの新刊本が795冊万引され、約110万円の被害に遭っていることが(略)分かった。県警は7月28日、(略)万引したとする窃盗の疑いで(略)女(40)を現行犯逮捕=同罪で起訴。3店での余罪があるとみて関連を調べている。
(略)7月11日に3店の本の入荷数と在庫数を調べたところ、今年2月から7月にかけて大幅に食い違っており、万引被害と分かった。
翌12日にインターネットのフリーマーケットサイトに(略)店で万引されたとみられる商品が大量に出品されているのを従業員が見つけた。サイトから購入したところ、被告から商品が届き、同被告が出品者と分かった。
同被告は今年2月ごろフリーマーケットサイトを開設。(略)万引した商品を半年にわたって次々と出品していたとみて、店内での行動に警戒していた。
同被告の逮捕容疑は、7月28日午後7時ごろ、(略)店で雑誌1冊(販売価格1188円)を脇の間に挟んで隠したまま、レジを通らず店外に出たとしている。同店の警備員が呼び止め、(略)署に通報した。
出典:徳島新聞(2017/8/25)
同じ店や周辺の店で万引きを繰り返す人の場合、
お店の防犯体制強化
によって、再び、同じ店内で万引きしたときに逮捕されることがあるようです。
その後、余罪についても捜査され、余罪の逮捕は「現行犯ではない逮捕」手続になります。
2.万引きは現行犯以外でも逮捕あり!通常逮捕(後日逮捕)とは、どんな逮捕手続?
(1)万引きは通常逮捕されることもある!通常逮捕とは?
「現行犯逮捕でない逮捕」のことを、
「後日逮捕」される
と表現してきました。
この「後日逮捕」は、専門用語でいうと、
「通常逮捕」
といいます。
「通常逮捕」とは、どのような逮捕手続なのでしょうか。
「通常逮捕」とは、逮捕状にもとづいて逮捕される手続です。
逮捕できる人も限定されています。
現行犯逮捕の場合には、万引きGメンや、書店の店員さんによっても逮捕されます。
しかし、通常逮捕の場合、逮捕権限は限定的です。
通常逮捕では、
検察官、検察事務官、司法警察職員
といった限られた範囲の人たちによってしか、逮捕されません。
「逮捕状」は、検察官や指定司法警察員によって請求され、裁判官によって発付されます。
逮捕状発付までの流れは、この図にあるような流れです。
捜査機関によって、万引きの証拠が収集され、逮捕状請求書(甲)が裁判官に提出されます。
その後、裁判官によって、
- 被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるかどうか
- 逮捕の必要性があるかどうか
について、審理されます。
逮捕状の審査
- 罪を犯したと疑うのに相当な理由があるか
- 逮捕の必要性があるか
裁判官によって、それらが認められると判断された場合に、逮捕状が発付されます。
(2)通常逮捕には逮捕状がつきもの!通常逮捕の条文を読んでみよう!
通常逮捕に関する条文を挙げておきます。
第百九十九条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。(略)
○2 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
出典:刑事訴訟法第199条第1項、同2項
逮捕状の記載事項は、次のとおりです。
- 罪名として窃盗罪が記載される
- 被疑事実の要旨として万引きしたときの犯行状況が記載される
といった形式になります。
第二百条 逮捕状には、被疑者の氏名及び住居、罪名、被疑事実の要旨、引致すべき官公署その他の場所、有効期間及びその期間経過後は逮捕をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。
出典:刑事訴訟法第200条第1項
このような逮捕状にもとづいて通常逮捕がされます。
原則として、通常逮捕では、
逮捕状が見せられてから逮捕される
ことになります。
第二百一条 逮捕状により被疑者を逮捕するには、逮捕状を被疑者に示さなければならない。
出典:刑事訴訟法第201条第1項
ただ、通常逮捕のとき、逮捕状が示されないケースもあります。
第二百一条 (略)
○2 第七十三条第三項の規定は、逮捕状により被疑者を逮捕する場合にこれを準用する。
出典:刑事訴訟法第201条第2項
第七十三条 (略)
○2 (略)
○3 勾引状又は勾留状を所持しないためこれを示すことができない場合において、急速を要するときは、前二項の規定にかかわらず、被告人に対し公訴事実の要旨及び令状が発せられている旨を告げて、その執行をすることができる。但し、令状は、できる限り速やかにこれを示さなければならない。
出典:刑事訴訟法第73条第3項
逮捕状は発付されていても、通常逮捕されるときに逮捕状がない場合では、
- 逮捕される時に、被疑事実の要旨及び逮捕状が発せられている旨が告げられ
- 逮捕されたあとに、警察署などで逮捕状が示される
ことになります。
では、現行犯逮捕と対比しながら、「通常逮捕」についてまとめておきましょう。
通常逮捕 | 現行犯逮捕 | |
---|---|---|
逮捕のタイミング | 後日 | 犯行の最中 犯行の直後 |
逮捕状の要否 | 必要 | ✖ |
逮捕できる人 | 検察官 検察事務官 司法警察職員* | だれでも |
逮捕状の請求権者 | 検察官 司法警察員* | ― |
逮捕の要件** | ・罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由 ・逮捕の必要性 | ・現に罪を行った場合、現に罪を行い終わった場合 ・犯罪と犯人が明白であること ・逮捕の必要性 |
現行犯逮捕と比較しながらだと、通常逮捕についても理解が深まりますね!
さて、通常逮捕されたら、その後、捜査機関によって、
通常逮捕手続書
というものが作成されます。
(逮捕手続書)
第百三十六条 被疑者を逮捕したときは、逮捕の年月日時、場所、逮捕時の状況、証拠資料の有無、引致の年月日時等逮捕に関する詳細を記載した逮捕手続書を作成しなければならない。
出典:犯罪捜査規範第136条第1項
逮捕状が示されて通常逮捕された場合は、
通常逮捕手続書(甲)
が作成されます。
このほか、
通常逮捕手続書(乙)
もあります。
通常逮捕手続書の「甲」「乙」の違いは、
通常逮捕の際に、実際に逮捕状を示されるかどうか
という違いです。
通常逮捕手続書(甲) | 通常逮捕手続書(乙) | |
---|---|---|
逮捕に逮捕状が必要か? | 必要 | 必要 |
逮捕時に逮捕状の提示があるか? | 提示あり | 提示なし |
「通常逮捕手続書(乙)」が作成されるのは、逮捕時に逮捕状が示されない通常逮捕のケースです。
ちなみに、逮捕手続には、
- 通常逮捕(後日逮捕)
- 現行犯逮捕
のほかに、
緊急逮捕
という逮捕手続もあります。
緊急逮捕は、通常逮捕と異なり、逮捕前にあらかじめ逮捕状の請求はされません。
急速を要する場合に、まず被疑者が逮捕され、事後的に逮捕状が発付される
という逮捕手続です。
第二百十条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○2 第二百条の規定は、前項の逮捕状についてこれを準用する。
出典:刑事訴訟法第210条
通常逮捕、現行犯逮捕、緊急逮捕の違いについて表にしました。
通常逮捕 | 緊急逮捕 | 現行犯逮捕 | |
---|---|---|---|
逮捕のタイミング | 後日* | 後日* | 犯行中 犯行直後 |
逮捕状 | あらかじめ 発付 | 逮捕後に 発付 | なし |
逮捕できる人 | 検察官 検察事務官 司法警察職員 | 検察官 検察事務官 司法警察職員 | だれでも |
逮捕の要件 | ・罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由 ・逮捕の必要性 | ・死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪 ・罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由 ・急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができない ・逮捕の必要性 ・逮捕後、直ちに逮捕状を求める手続 | ・現に罪を行った場合、現に罪を行い終わった場合 ・犯罪と犯人が明白であること ・逮捕の必要性 |
もっと詳しく逮捕手続を知りたい方は、こちらも参考になります。
アトム法律事務所の弁護士が逮捕手続の概要について詳しく解説している動画もあります。
万引きの被害届と捜査の関係、万引きの通報について知りたい方は、こちらの記事もご覧くださいね。
さて、次の項目では、
万引きがどのような犯罪か
ということについて確認していきましょう。
3.万引きが通常逮捕される条件①|万引きはどんな犯罪?窃盗罪の要件とは
さて、これから万引きで通常逮捕の条件を確認していきましょう。
まずは、「万引き」が成立する要件について確認です。
万引きは、窃盗罪の手口の一つです。
したがって、窃盗罪が成立するための要件を条文で確認していきましょう。
(窃盗)
第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
出典:刑法第235条
窃盗罪の要件を抜き書きしてみました。
窃盗罪の構成要件
- 他人の財物を
- 窃取
たとえば、次のようなケースは、万引きとして通常逮捕される可能性があります。
・本屋の店内で、本をカバンに入れた ・百貨店のアパレル店内で、服をカバンに入れた ・スーパー店内の食糧品をカートに入れて、レジを素通りした |
ちなみに、本屋で本を万引きした後、後悔して、
本屋に戻って、万引きした本を、そっと返しておいた
という事案があったとします。
この事案のように万引きした盗品を返す場合、「窃盗罪」は成立しないと考える人もいます。
しかし、あとで返すとしても、商品を自分の占有下に置いた時点で、法律上は「窃盗罪」が成立してしまいます。
万引きの成立要件について詳しく知りたい方は以下のリンクもご覧ください。
窃盗罪の条文に規定された懲役刑や罰金刑についても再確認しておきましょう。
この範囲内で刑事処分が裁判で言い渡されることになります。
万引きの刑期や罰金
- 10年以下の懲役
- 50万円以下の罰金
初犯の万引きで通常逮捕された場合、不起訴だったり、執行猶予がついたりという傾向があります。
一方で、万引きを繰り返して前科や余罪が多数あるという場合には、実刑が下されるということもあるようです。
さて、次に「通常逮捕」の要件について確認していきましょう。
4.万引きが通常逮捕される条件②|「逮捕の必要性」「相当な理由」など通常逮捕の要件
(1)「相当な理由」(刑事訴訟法199条1項本文)とは?
通常逮捕の条文上の要件として、
「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるとき」
という要件がありました。
この「相当な理由」とは、どのような理由をいうのでしょうか。
万引きにおいては、
- 服屋さんのアパレルを万引きしているところが防犯カメラに映っている
- 書店内の本を万引きして転売し、その転売履歴が残っている
というようなケースで、「相当な理由」があるとされるでしょう。
(2)「逮捕の必要性」(刑事訴訟法199条2項ただし書)とは?
では、「逮捕の必要性」の要件についても確認していきましょう。
この逮捕の必要性の要件が規定されている条文は、刑事訴訟法199条2項ただし書や、刑事訴訟規則143条の3です。
「逮捕の必要」がないときは、逮捕状が発付されません。
この「逮捕の必要」とはどのように判断されるのでしょうか。
逮捕の必要性の有無は、
- 被疑者の年齢、境遇、犯罪の軽重・態様その他諸般の事情が総合的に考慮され
- 「逃亡のおそれ」「罪証隠滅のおそれ」の有無
などによって、判断されます。
逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれが認められた場合、逮捕の必要性という要件が満たされます。
たとえば、万引きをしたのが会社員だったとします。
この会社員のケースで、「逃亡のおそれ」や「罪証隠滅のおそれ」について検討してみましょう。
逃亡のおそれ
このような会社員の場合、会社に出勤しないといけないので、通常は逃亡しないと考えられます。
扶養家族がいるケースなどは、なおさらです。
そうすると、「逃亡のおそれ」は無いということになります。
罪証隠滅のおそれ
罪証隠滅とは、犯罪事実の存否や情状に関係のある証拠を隠し、証拠に不当な影響を与えることです。
これには、被害者に圧力を加えてその供述の変更を迫ったり、共犯者と口裏合わせをするというようなことも含まれます。
したがって、
- 万引きの被害届を取り下げるよう被害者に執拗に迫ったり
- 共犯者と万引きを否認するための口裏合わせをしたり
といった可能性がある場合、罪証隠滅のおそれあたります。
なお、万引きと後日逮捕の関係は『万引きでは通常逮捕(後日逮捕)されない?現行犯逮捕以外は難しいのか実例で検証』で詳しく説明しているので、是非ご覧ください。
5.警察に通常逮捕されるまでの期間は?万引きの時効とは
では、万引き後、通常逮捕されるまでの期間はどのくらいかかるのでしょうか?
捜査状況のよるため、どうなるのかは個別の万引き事件によって違います。
ただし、犯罪の起訴には「期間制限」はあります。
この「期間制限」のことを
公訴時効
と呼びます。
さて、万引きの公訴時効とは、どのくらいの期間なのでしょうか。
万引きの公訴時効は、7年です。
公訴時効は、犯罪の性質や条文に規定される懲役などの刑罰によって異なります。
万引きは、刑法の窃盗罪に該当します。
窃盗罪の懲役刑は10年以下です。
この場合、刑事訴訟法250条2項4号により、公訴時効が7年とされます。
万引きの公訴時効
- 公訴時効とは、「犯罪後一定期間が経過することにより刑事訴追が許されなくなる」という制度。
- 万引きの公訴時効の年数は、7年。
- 時効成立後には通常逮捕されない。通常逮捕された場合でも釈放される。
万引きで通常逮捕されないように逃げたいという人もいるかもしれません。
ですが、時効直前で逮捕されるというケースもあります。
万引きの時効については『万引きの時効は何年で迎える?|刑事・民事の時効をそれぞれ解説』をご覧ください。
万引きの通常逮捕について不安な方は、無料相談などを活用して、早めに弁護士さんに相談しておきたいところです。
ちなみに、万引きで逃げた場合のその後について特集した記事もあります。
では、次の項目では、通常逮捕までの万引き捜査の実態について見ていきましょう・・・。
通常逮捕までの万引き捜査や、その後の裁判までの流れはどうなる?
1.万引きの後日逮捕の証拠は?被害届・防犯カメラ・車のナンバー・指紋・転売履歴などの捜査手法
万引きの通常逮捕までの捜査は、どのようにされるのでしょうか。
万引き被害について、店側によって被害届を提出されることによって警察の捜査が開始されます。
その後、今まで少し見てきたように、
- 防犯カメラの映像や
- 転売履歴
などが通常逮捕の証拠になります。
このほか、車のナンバーや、指紋なども万引きの証拠になるようです。
市内のドラッグストアで商品を万引したとして、(略)署は26日、窃盗容疑で、(略)中学校の常勤講師(略)容疑者(略)を逮捕した。「自分のお金が減ってしまうことが嫌だった」と容疑を認めている。
逮捕容疑は7月17日午後4時5分ごろ、(略)市内のドラッグストアで、馬油や350ミリリットルの缶酎ハイ計6点(販売価格約5700円)を盗んだとしている。
同署によると、(略)容疑者はトートバッグに精算前の商品を入れて店外に出ようとしたが、出入り口に設置された万引防止用のセンサーが反応。男性店員が声をかけたが、軽乗用車で逃走したという。車のナンバーから(略)容疑者が浮上した。
出典:産経WEST(2016.10.26 14:04)
万引きの通常逮捕は、車のナンバーが証拠になることも多いようです。
靴用品店で今年4月、男性店長が靴を万引した男に車をぶつけられ軽傷を負った事件で、(略)署は(略)容疑者(25)を逮捕したと発表した。(略)同署によると、店長が車のナンバーを覚えており、(略)容疑者の関与が浮上したという。
出典:産経WEST(2015.9.9 12:46)
また、指紋も、万引き逮捕の重要な証拠になります。
下のニュースは、証拠偽造に関する報道です。
このニュースを読むと、指紋照合がどれだけ重要な証拠になるか知ることができます。
鑑識係長が、署で採取した容疑者の指紋を現場や証拠品などから取ったと偽り、複数の捜査報告書を偽造した疑いがあると発表した。
(略)
署の機械で採取した万引きや暴行などの容疑者の指紋を現場や盗品などから取ったように見せるため、捜査報告書に虚偽の説明などを記していた。鑑識活動では証拠品などから取った指紋は県警内で評価が高いとされ(略)ている(略)県警は被害額が軽微な窃盗事件や、被害者との示談を終えるなどした微罪処分の事件が大半で、検察に送検せず、容疑に争いのない事件に限って偽造していたとしている。
出典:毎日新聞2016年12月27日 21時01分(最終更新 12月28日 00時42分)
このような捜査過程で、万引きの疑いをかけられて警察から電話がくることもあります。
次の項目では、逮捕の方法についてみていきましょう。
2.逮捕の方法は?警察から万引きの捜査で電話が来たらどうする?
通常逮捕の方法は、逮捕状にもとづいて逮捕されるものです。
逮捕の方法として考えられるパターンは、
家に警察が来て、逮捕状にもとづいて逮捕される
というパターンが考えられます。
また、警察から電話が来て、任意出頭を求められるケースもあるでしょう。
この場合、任意出頭後、万引き容疑に関する取り調べを受けることになります。
この取り調べの事情聴取で、万引き容疑が固まり、その後通常逮捕されるというパターンも考えられます。
警察から電話が来た場合、万引きで捕まらないようにしたいと思って、電話を無視するということは得策ではありません。
電話を無視したことで、「逃亡のおそれ」があると判断され、すぐに逮捕状が出されてしまう可能性もあるからです。
警察から電話が来たときは、弁護士に相談してその後の事情聴取の準備をしておきましょう。
警察から電話が来たときは、慌てずに冷静に弁護士さんに連絡しましょう。
3.逮捕の時間制限は?拘留期間(勾留期間)は何日?万引きの通常逮捕だと何日?
(1)万引きで通常逮捕されたとしたら…その後の流れは?
では、万引きで通常逮捕されたら、どのくらいの期間、拘束されてしまうのでしょうか。
通常逮捕されたその後の流れについて、こちらのイラストをご覧ください。
警察に通常逮捕されたとします。
その後、48時間以内に検察官に送致されます。
そして、検察官が被疑者の身体を受け取ったときから24時間以内に、勾留の請求がされます。
この「勾留」は、刑罰の一つである「拘留」とは異なります。
逮捕のときから算定すると、72時間以内です。
勾留請求後は、多くの場合、ほぼ1日で、勾留されるかどうかが決定されます。
勾留されることになった場合、勾留期間は原則として10日間です。
事案によっては、さらに10日間延長されます。
このように、逮捕されてから起訴されるまで最長で23日間、身体の拘束が継続します。
(2)万引き事件逮捕から拘束される期間は?日数は?
では、万引きの場合に拘束される日数は、どのくらいの期間になるのでしょうか。
万引きの場合には、逮捕当日や、逮捕されてから数日後には釈放されるケースも多いです。
通常逮捕後には、万引き容疑について取り調べがされます。
万引きの逮捕後、取り調べについて頼りになる弁護士さんに相談したいという方も多いでしょう。
「でも、弁護士費用が気になる・・・。」
という方のために、万引きを弁護士に相談するときの費用について特集した記事もあります。
警察に通報されても通常逮捕されないこともあります。
次の項目では、そのようなケースについて見ていきましょう。
4.通常逮捕されずにすぐ釈放?万引きの微罪処分とは?
さて、万引きで通常逮捕されないケースについて見てみましょう。
いわゆる「微罪処分」とはどのようなものなのでしょうか。
「微罪処分」とは、
犯罪事実が極めて軽微であり、検察官によって送致の手続をとる必要がない旨あらかじめ指定されたものについて、司法警察員によって検察官送致がされないことをいいます。
この場合、警察限りで訓戒等が施されて手続が終結されます。
警察が捜査した事件は、原則として、検察官に送致されることになっています。
しかし、軽微な犯罪については、警察限りで事件が終結されることがあります。
このような「微罪処分」に関連する条文は、次のとおりです。
司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。
出典:刑事訴訟法第246条
(微罪処分ができる場合)
第百九十八条 捜査した事件について、犯罪事実が極めて軽微であり、かつ、検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定されたものについては、送致しないことができる。
(微罪処分の報告)
第百九十九条 前条の規定により送致しない事件については、その処理年月日、被疑者の氏名、年齢、職業及び住居、罪名並びに犯罪事実の要旨を一月ごとに一括して、微罪処分事件報告書(別記様式第十九号)により検察官に報告しなければならない。
(微罪処分の際の処置)
第二百条 第百九十八条(微罪処分ができる場合)の規定により事件を送致しない場合には、次の各号に掲げる処置をとるものとする。
一 被疑者に対し、厳重に訓戒を加えて、将来を戒めること。
二 親権者、雇主その他被疑者を監督する地位にある者又はこれらの者に代わるべき者を呼び出し、将来の監督につき必要な注意を与えて、その請書を徴すること。
三 被疑者に対し、被害者に対する被害の回復、謝罪その他適当な方法を講ずるよう諭すこと。
出典:犯罪捜査規範第198条、同199条、同200条
たとえば、微罪処分までの流れは、次のとおりです。
①万引きで警察に通報される ②万引きの現場に警察が来る ③万引きの状況などを警察に聞き取り捜査される ↓↓↓ 《微罪処分》 ④警察から捜査後に厳重注意などの訓戒を受ける |
万引きの微罪処分に関する特集記事はコチラをご覧ください。
さて、さいごに万引き通常逮捕後の裁判について確認していきましょう。
万引きで通常逮捕されたら裁判はどうなる?気になる刑期は懲役何年?
1.万引きで通常逮捕されても初犯だと不起訴?起訴猶予ってなに?
万引きが通常逮捕されたとしても初犯の場合、裁判は不起訴とされることが多いです。
万引きの疑いがあり、容疑は十分だけれど、不起訴とされるケースです。
このようなケースのことは、「起訴猶予」といわれています。
「起訴猶予」とは、
検察官の事件処理において、訴訟条件を具備し犯罪が立証できるにもかかわらず、訴追の必要がないとして不起訴にする処分
のことです。
起訴猶予は、犯人の性格、年齢、境遇、犯罪の軽重、情状、犯罪後の情況を総合考慮して決定されます。
万引き初犯が起訴猶予とされるのは、
- 初犯のケースでは犯罪傾向が進んでいない
- 万引きの被害金額は比較的少額である
といったことが理由です。
さらに、示談も成立しやすいので、不起訴となりやすい傾向があります。
万引きで裁判になってしまったケースの流れについて気になる方は、以下のリンクもご覧ください。
さて、初犯ではなく、二回目・三回目の万引きだとどうなるのでしょうか・・・。
2.二回目・三回目など再犯の万引き通常逮捕は実刑?
万引きという犯罪では、万引きを繰り返す人が多いようです。
繰り返し逮捕されても、受刑しても、万引きをやめられない人々がいる。それが、「クレプトマニア(窃盗症、窃盗癖)」の人々だ。
(略)
病気の明白な症状として、①大して必要でもないものを盗むこと、②盗みをやめようとしてもやめられない、やめるための努力に繰り返し失敗する、ということが挙げられているわけである。
出典:現代ビジネス(2018/03/07)「ゼロからわかる「クレプトマニア」万引きがやめられない人々」より(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54741)
このように、万引きをくり返して
- 二回目
- 三回目
と通常逮捕された場合、刑罰は実刑となってしまうのでしょうか・・・。
初犯の万引きでは、
- 不起訴だったり
- 罰金刑
という刑罰にとどまる傾向があります。
これに対して、万引きの再犯の場合、二回目・三回目と繰り返してしまうと刑期が重くなる傾向があります。
たとえば、執行猶予期間中や、執行猶予期間直後の再犯の場合は、懲役刑の実刑判決が出される可能性が高いです。
もっとも、執行猶予期間終了後から数年経過後の再犯の場合は、懲役の実刑ではなく、罰金刑にとどまることもあります。
万引きで逮捕される回数が多ければ多いほど、刑期が重くなる傾向があります。
万引きは、単に経済的理由だけでなく、窃盗癖など万引きを繰り返す病気が原因だったりするケースもあります。
そのような場合には、万引き依存に関する治療をするなどして、万引きをくり返さない対策を取りましょう。
そのような対策に取り組むことで、懲役刑に執行猶予がつくなど刑期を軽くできる可能性があります。
さて、二回目・三回目の万引について特集した記事もあるので、もっと詳しく知りたい方は見てみてください。
さて、次の項目では、未成年が万引きして逮捕された後の流れについて確認していきましょう。
3.中学生などの未成年が万引きして逮捕されると家庭裁判所?退学?
未成年の万引き①|家庭裁判所の審判
未成年者が刑事事件を起こした場合には、通常の刑事裁判ではなく、全ての事件で
家庭裁判所の審判
を受けることになります。
これを「全件送致主義」などと呼んだりします。
ただ、事案が重大なケースでは、通常の裁判所の審理に回されることもあります。
これを「逆送」などと呼んだりします。
話がやや専門的になりましたが、未成年者が万引きをした場合の流れを追って確認していきましょう。
下の図は、少年事件の処理の流れについて、オーソドックスな流れを示した図です。
たとえば、
万引きをして、警察によって通常逮捕された
とします。
そのような通常逮捕の場合、その後、
警察によって調査され
さらに、必要があるときには
少年鑑別所で「鑑別」を受ける
ことになります。
少年鑑別所についての説明は次のとおりです。
少年鑑別所は、(1)家庭裁判所の求めに応じ、鑑別対象者の鑑別を行うこと、(2)観護の措置が執られて少年鑑別所に収容される者等に対し、健全な育成のための支援を含む観護処遇を行うこと、(3)地域社会における非行及び犯罪の防止に関する援助を行うことを業務とする法務省所管の施設です。
昭和24年の少年法及び少年院法の施行により発足し、現在は平成27年に施行された少年鑑別所法(平成26年法律第59号)に基づいて業務を行っています。
各都道府県庁所在地など、全国で52か所(分所1か所を含む。)に設置されています。
出典:法務省HPより(http://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_kyouse06.html)
少年鑑別所の鑑別を経て、家庭裁判所の審判を受けるという流れになっています。
未成年の万引き逮捕②|万引きで退学にならないか?
万引きについて、店側から警察に通報された後、
学校にも知られてしまった
ようなケースでは、学校を退学になってしまうのではないかと不安になりますよね・・・。
校則は学校ごとに違います。
万引きをしたことで退学になるかどうかは、校則次第でしょう。
詳しくは、万引きで退学になるかどうか特集記事をご覧ください。
未成年者でなくても・・・万引き逮捕で会社はどうなる?
万引きで通常逮捕されたら、未成年でない場合、
- 「会社に連絡されてしまうのだろうか・・・。」
- 「会社を解雇されてしまうのだろうか・・・。」
ということが気になると思います。
万引き事件で会社に連絡がいくとしたらどのような場合なのでしょうか。
勤め先である会社に関係する事件や、会社関係者の事情聴取を行うようなときは、会社に連絡がいく可能性があります。
万引きが会社の解雇事由になるかどうかも、会社の規則によります。
万引きと解雇の関係については、以下のリンクもご覧ください。
さて、さいごに示談と不起訴の関係について見ていきましょう。
4.万引きは通常逮捕されても示談すると不起訴?被害額に応じた示談が必要?
万引きの容疑が十分でも、様々な事情が考慮され、起訴猶予とされるケースがあるというお話を先ほどしました。
この起訴猶予の際に考慮される事情として、
示談の成立
というのがあります。
示談の成立と起訴猶予の関係について確認しておきましょう。
「示談」とは、民事上の紛争を裁判によらずに当事者間で解決する契約です。
刑事事件による損害について、民事上、刑事事件の加害者は被害者から損害賠償請求される関係にあります。
この賠償請求に関する紛争を、民事裁判ではなく、当事者の合意で解決するのが示談です。
示談の成立は「犯罪後の情況」として考慮され、起訴猶予される方向に考慮される事情となります。
起訴猶予に関連する条文を挙げておきます。
犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
出典:刑事訴訟法第248条
示談が成立すると、示談金を加害者は支払うことになります。
示談金の支払いによって、被害弁償がされたと評価されることも、不起訴処分につながる理由です。
示談の流れについては、下の図をご覧ください。
通常逮捕された後、被害者であるお店と万引きの示談交渉を始めることになります。
被害者の処罰感情などもあるため、通常は、加害者側は弁護人に依頼して示談交渉を進めていくことになります。
万引きの示談金については、以下のリンクから確認できます。
まず、
① 窃盗・詐欺をタップ
次に、
② 万引きをタップ
してみてください。
時間的な余裕をもって示談交渉を進めるためにも、逮捕後すぐに示談交渉に取り組むことがおすすめです。
万引きの示談について詳しく知りたいという方は、こちらの記事もご覧ください。
万引きの通常逮捕の流れや、その後の示談交渉の流れについてもバッチリですね。
さいごに、すぐに弁護士に相談できる方法をご紹介しておきます。
コンビニや百貨店で万引き…通常逮捕されるか不安な方へ!弁護士に相談する方法
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さいごに
今回は、「万引きの通常逮捕」についてレポートしてきました。
通常逮捕の要件や万引きの要件、通常逮捕後は示談交渉を始めなければならないという点も確認できてよかったです。
万引きの初犯は不起訴になりやすいといわれていますが、示談の成立は不起訴になるために非常に重要となります。
示談交渉は早期に始めることで、示談の成立の可能性を高めることができます。
万引きで通常逮捕されそうな方や、通常逮捕されたご家族の方は、お早めに弁護士にご連絡いただければと思います。